SS‐DIARY

2004年10月14日(木) (SS)ハニー・ジンジャー・ホットミルク

夜、なんとなく温かいものが飲みたくて、ミルクを温めていたら進藤がやってきた。

「なになに?なに作ってんの?」

後ろからのぞき込むようにして、ちょこんと肩に顎を乗せる。


「なにって…別に…ホットミルクだよ。もうこんな時間だし、カフェインの入っていないものが飲みたかったから」

さっきまで人を放ってゲームに夢中になっていたくせに、同じ部屋の中からぼくが消えると途端に気になってしまうらしい。


「おれも飲みたい」
「いいよ、じゃあ先にこれをあげるから」

少し甘やかし過ぎかなと思うけれど、こんなふうに子犬のようにまとわりついてくる進藤は実は嫌いでは無いので、言ってマグカップに湯気のたつミルクを注いで渡してやる。

「はい。熱いから気をつけて」
「えー?おまえも一緒に飲もうよ」
「だからこれから温めるから、キミはそれを先に―」

そうじゃなくて、これを一緒に飲もうって言ってんだよと、マグカップをずいと出されて少し驚く。

「進藤三段、今日は随分甘えてるんじゃないですか」
「いーじゃんか、そんなたくさん飲みたいわけじゃないし、今から温めてたら、おまえのが出来るころ、おれもう飲み終わっちゃってるし」

あーもーとにかくさ、一つのカップで二人で飲むってのがやりたいんだよと焦れたように言われて、とうとう我慢できなくて笑ってしまった。


「…しょうがないなあ」

でも実はぼくもそれほどたくさんを飲みたかったわけではないので、進藤の我が儘はちょうどいい申し出だったりしなくもない。


「おまえ先に飲んで」
「うん」

ふーと吹いてこくりと飲む。

「はい、今度はキミの番」

同じようにふーふーと吹いてそれから飲むのかなと思ったら、まだふーふーふーふーふーふーとずっと吹いている。


「もしかして…猫舌?」
「ち、違うよっ」

ただちょっと熱いのが苦手なんだと、それが所謂猫舌というものだと思うのだけど。

くすりと笑うと、バカにされたと思ったのか、かっと進藤の頬が赤く染まった。


「お、おまえ、ちょーしに乗って温めすぎなんだよ。おれ、膜が出来るほど温めるのはヤなんだって」
「そう?じゃあ少し冷めるまで待つ?」
「冷まして」


我が儘モード全開で、進藤は言った。


「おまえが温めすぎたんだから、おまえが冷まして」

そんなこと言われてもこれは元々はぼくが飲むつもりで温めたもので、ぼくは舌が焦げるほど熱い方が好きでと、言っても進藤は口を尖らせて言い張った。

「とーにーかーくー、おまえが冷ましてって言ってんの!」


余程笑われたのが悔しかったんだなと、でもこういう進藤もかわいいなあと思いつつ、じゃあと、ふうと吹いてやると「違う」と首を横に振られてしまった。


「え?だって冷ますって…」
「だから人肌にしてよ。おまえの口ん中で」

にっと笑って言われて、今度はかーっとこっちが赤くなる。


「だめ?」


でもそうしないとおれ飲めないな。飲まないでいると今度は冷たくなりすぎちゃうかもしれないよなと、脅しているのだかねだっているのかわからない口調で迫ってくる。


「ね…いいじゃん」
「そ、そんなの」

恥ずかしくて出来るかと思うのだけれど、いつまでも引く様子が無いので諦めて一口ミルクを口に含んだ。


途端に嬉しそうに進藤が笑って、ぼくに口づける。

唇を割って入ってきた舌に、ミルクが滴り顎を伝ってこぼれた。


「―――――――――――――――――っ」

引き離すようにして離れて、顎を拭うと、目の前の進藤は蜂蜜を舐めた熊のように満ち足りた顔で笑っていた。


「…まだ、全然冷めてなかったはずだぞ」
「そう?んなこと無かったけどなあ」
「いや、まだ熱かったよ」
「んー?でもちょうどよかったけど」

しれっと言う顔に、ようやく気がついた。


「猫舌っていうのは…嘘だったんだな!」

にやにやと嘘つきは幸せそうな顔で笑っている。


「ど、どうしてキミはいつもそう、くだらない嘘ばっかりつくんだっ!」
「別に嘘なんかついて無いって」


熱いのが苦手ってのは本当だからと、でも、飲めないわけじゃないけどなと、そう言って怒鳴りかける口を塞ぐように進藤はもう一度キスをしたのだった。


「おいしかった♪さんきゅ♪」

ミルクすげー甘かったと、砂糖も入れていないのに言うものだから、ぼくは益々赤くなり、せっかく温めたミルクをそれ以上飲むことが出来なくなってしまったのだった。


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そろそろホットミルクのおいしい季節ですねぇ。
あれ、膜が好きな人と嫌いな人に別れますよね。
みなさまはどちらでしょうか?

そういえば昔、ジンジャーミルクというものを凝って作っていた頃があります。
漫画に出てきたのかな。ちょっとだけしょうがの絞り汁を入れるんですよ。
でもなんか美味くできなくてショウガ臭いだけのミルクになってしまいました。

あ、タイトルこうですが、二人が飲んでいるのはごくフツーのホットミルクです。


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