| 2004年10月02日(土) |
(SS)パパがライバル3 |
ヒコーキを見てきた。
そう聞かされた時、それが一瞬父とは結びつかなくて、そうだと言われてひどく驚いた。
「うん、解散ってなった時に先生に声かけられてさ」
そういえば、君はまだ空港を見たことが無いって言っていたな。なんだったら一緒に来るかねと、父はたぶん冗談で言ったのだと思う。
けれど進藤はそれをそのまま素直に誘いの言葉と受け止めて即断で「行く」と言ったらしい。
「いや、おれ小学校ん時に社会科見学で羽田には行ったんだけどさ、成田には行ったことなくて」
どんなんか見てみたかったのだと、それでもって行ってみたら空港はすごく広くてキレイで飛行機もたくさん見れて楽しかったと進藤は言うのだった。
「だんだん夕方近くなってくるとさ、空の色が落ちてくるだろ?そこに飛行機がゆっくり移動してくのが水の中泳いでる魚みたいでさ」
はしゃぎながら言う、まるでそれは遠足に行った子どものようだと思う。
「で、飛行機を見てそれで帰ってきたの?」
それ以上の返事が返ってくるものとは思わずに聞いた言葉だったのに、進藤はいともあっさり「まさか」と言ったのだった。
「せんせーのおごりで高い寿司食って、その後はヒコーキがよく見えるってレストランで茶しながら検討してた」 「検討?」 「ん。先週のおれの対局を見たいって言うからさー」
それは終わった後、ぼくの対局の棋譜と一緒にぼくが送ったはずなのだがと心の中で、ちりりと思う。
きっと父は、進藤の口からその時どう考えて置いたのか、聞きながら見たかったのだろう。
いつもぼくが彼にそう望むように。
「おれさー、負け碁だったから、てっきりミスを諭されるかと思ったのに、そーゆーんは無かったな。むしろじゃんじゃんやりたいようにやりなさいみたいに言われておかしかった」
ためらうことなく、自分の考えと直感に従って進めと、先週の進藤の一戦は、途中で読み間違えはあったものの、それさえなければ圧勝というものだったから。
「…ぼくだってそう思った」
つい心の中の声がぽつりと出てしまい、進藤が「えっ」と顔を上げた。
「おまえ、さんざん人のこと罵ったじゃん」
何言ってんのおまえと言われてカッと頬が熱く染まった。
「罵ってなんかいない。キミが勿体無い打ち損じをするから指摘しただけだ」
本当はぼくも父のように言いたかった。
キミはキミの思うように打てばいいよと。でもそれを言えなくて、父に先に言われてしまったのだということが非道く悔しい。
「お父さんがなんて言ったか知らないけど、だからって調子に乗ってると、リーグ戦すぐに敗退することになるよ」
ぼくが言ったら進藤の顔色がさっと変わった。
「わかってるよ」
もう、まったく、かわいくねぇなと声に出さずに唇だけ動かして進藤が言った。
「まあ、せいぜいおまえに怒らんないように、みっともない負け方だけはしないからさ」
安心してと、それには少しだけ皮肉もこめられていて、胸がちくりと痛んだ。
「ああ、ぜひそうしてもらいたいね」
そしてそのまま彼は機嫌悪く帰ってしまったのだけれど。
(どうして…)
(どうしてぼくは…)
こうもひねくれているものかと、その後、取り残された部屋の中で一人棋譜を並べながら、泣けて、泣けて仕方が無かった。
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2も好評だったので調子にのってまた続きを書いてしまいました。いや本当はただ単純にアキラもヒカルと一緒に飛行機を眺めながら時間を過ごしたかっただけなんだよと、そういうお話しでした。
父親が大好きだけれど、それでもってその父親と恋人が仲が良いというのは理想的なはずなんだけど、なんでこうももやもやするかなと。そういう感じの話なんでした。
いや、それくらいアキラはヒカルが大好きなんですよ。焼き餅やきです。
でもこれは両方ともに焼き餅やいてる感じかな。複雑です(笑)
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