風呂上がり、ふと気がつくと進藤がこちらをじっと見ていて、なんだろうと見返したら目をそらされた。
「…なに?」
なにか言いたいことがありたそうだったのにと近寄って行くと、何故か背中をむけられてしまった。
「なんでもないよ、あっち行け」
しっしっと追払われて、なんだか非道く理不尽な気持ちになり、逆にべたっと背中に張り付いてやった。
「なんだその言い方は。何か言いたいことがあるならちゃんと話せ」 「話せって別に…そんな大したことじゃ」
言いよどむ、彼の首筋が真っ赤に染まっていることにようやく気がつく。
「どうした?具合でも悪いのか?」
熱でもあるのかと額に手を伸ばそうとしたら、ああっもうと怒った口調で向き直られた。
「もう、もう、どうしておまえってそう天然なんだよ」 「天然って」
失礼な物言いにむっとする。
「その言い方は無いだろう?そもそもキミが挙動不審だからいけないんじゃないか」
さっき何か言いたかったんだろう、今すぐそれを言えと厳しい口調で迫ったら、進藤はひどくうろたえて、心底困った顔になり、それからぽそっと言ったのだった。
「だって言ったらおまえ、きっとおれのこと変態だって言う」
赤い顔で言われて、一体どんなことをと身構えたら、進藤は情けない声で「違うって〜」と言った。
「そんなすげえことおれ考えてないよ」 「じゃあなんだ?キミが話さなければわからないだろう?」
詰め寄ると観念したようで、ため息をつきながら進藤は言った。
「におい…かがせて欲しいなって」 「は?」
一瞬意味がわからなくてきょとんとしたら進藤は、あーっもうだからっ!と頭をかきむしってしまった。
「おまえ、すごく…いいにおいするんじゃないかなって」
首すじとか、髪とか、だから嗅いでみたくなったんだと逆ギレのように言われて思わず吹き出した。
「なんだ、そんなこと」 「そんなことって言うけどさ、んなこといきなし言ったらおれ変態みたいじゃんか」 「いいよ?」
どうぞ好きなだけ嗅いでもいいよと、そう言ったら進藤はぴたりと動きを止めて、それからいきなりうつむいてしまった。
「進藤?」
何か変なことを言ってしまったかと思って見ていると、ちらりと進藤が上目でぼくを見た。
「ほんとに?」
ほんとにいいわけ?変態って言わない?と、繰り返す言葉が拗ねたようで、照れているのだとようやくわかった。
「いいけど?別に」
ぼくたちは体の関係を持ち、互いに知らない部分が無いくらいになっている。なのに今更なにをそんなにためらっているのだと、ぎゅっとその頭を抱き込んでやると、進藤はそろそろと腕をまわしてぼくを抱き返した。
「においでもなんでも嗅げばいい。抱きしめても抱いても何をしてもいいよ」
だってぼくはキミのものなんだからねと、そう言ったら進藤はかすれるような声で「ありがとう」と言い、ゆっくりとぼくの首筋に顔を埋めた。
「ん…、やっぱおまえ…」
すごくいい、すごくいいにおいと、うっとりした声で言うと、進藤は満足そうな息をもらし、それから改めてぼくの体中をたどりはじめたのだった。
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昨日、ラジオを聴いていて、においフェチの話が出てまして、ああきっとヒカルはアキラの体のにおい嗅ぐの大好きだろうなあって(笑) でもそういうのって、えっちの最中になら別に平気にできても、普通の生活をしている時には恥ずかしくって言えないだろうなと。そう思ったわけです。
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