SS‐DIARY

2004年09月15日(水) (SS)とおいとおいきたのくに

ふと、ぽそっとあいつがつぶやいたのに「なに?」と聞き返すと、驚いたような顔をされた。

「…え?」

どうも無意識だったらしく、ついうっかりと思っていたことを口に出したのをあいつは恥じているようだった。

「なあ、今なんて言ったの?」

独り言というよりもそれは詩か歌の一節のようで、なんだか妙に耳についたのだ。

「…マザーグースだよ」

おれが話をそらす気がないのを見て、観念したように言う。

「本当にぼんやりと思い出していただけなんだけど」
「どんなの?」
「ん…」

そしてあいつが今度は、はっきりと繰り返したのは短い三行詩みたいな詩だった。


とおい

とおい

北の国

ロバが苦しい咳をしてる


「そんだけ?」
「さあ?」

もっと長いものなのかもしれないけれど、ここしか知らないのだと言ってあいつは苦笑のように笑った。

「昔、子どもの頃に読んでもらった本に出てきたのだったかな。もう…よく覚えていないんだけど、なんだかとても印象に残っていてね」


なんだか寂しい詩だよねと、言うあいつの顔も寂しそうで、ああ親のこと考えてるんだなとそう思った。

少し前、小さな発作を起こした塔矢先生は、入院してまだ病院での生活を続けていたから。


「切ないね」


それはロバに対して言ったのか、それともいつか来るかもしれない別れを想って言ったのか。


「うん…切ないな」


とおい

とおい

北の国―



覚えたばかりの詩を口の中で繰り返しながら、おれは佐為のことを考えていた。


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ずっと前、エヴァのパロのタイトルにもつけた詩。
もしかしたらヒカアキでも小ネタで書いているかもしれないですがその時は笑って許してやってください。


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