| 2004年08月13日(金) |
(SS)煩悩の船に乗り業の海を行く |
腕をつくたび何かが痛くて、なんだろうと見てみたら肘の皮がぺろりと剥けていた。
なんでこんなことをと思うまでも無く、夕べ布団からはみ出して、畳の上でこすれたのだと思った。
―あっと、挿れられた瞬間に体が強ばって、崩れまいと腕に力を入れた覚えがあるから。
ぺらぺらと、ほんの数ミリほどではあるけれど、めくれた皮の下は生々しく赤くて、ああ、きっと彼のモノの挿いる、自分の中身もこんな色なんだろうかとぼんやりと思った。
生々しく赤く 湿った音をたてる。
挿れられる瞬間、自分は生き物なんだなといつも思う。
生きて煩悩にまみれ
生殖では無く、交尾する。
愚かで色に弱く
感情に溺れる。
(それじゃ…いいとこ無しだな)
自分で自分のケモノぶりに呆れ、苦笑しながらふと思いつく。
「あ、やっぱり」
他にもあるのでは無いかと体中を見てみたら、皮こそ剥けていないものの、足や肩にも何カ所か擦れた傷があった。
(そこまで我を忘れていたつもりは無かったんだけど)
我を忘れていたんだなとおかしくなった。
「ん?なに?」
体中をひねくりまわして見ているぼくに、ごろ寝をしていた進藤が起きあがり、近寄ってきた。
「ああ…ちょっとここ…剥けちゃって」
見せてやると、わ痛そうと顔をしかめる。
「ちょっと夕べ激しかったもんなあ」と言われて「激しかった?」と尋ね返したら「自覚無しか」と笑われた。
激しかったよ、すげー激しかったです。おれ脳の血管切れるかと思ったと、感心してるんだかバカにしているんだかわからないようなことを進藤は言うので取りあえず殴っておく。
「んー、まあ、じゃあ消毒」
言って「え?」と思うまもなく進藤はぼくの肘を掴み、ぺろりと舐めた。 原始的なと思う間もなく、ちろちろと続けて舐められて息が詰まる。
湿った舌は傷に非道く凍みたのだ。
「あ、ごめん痛かった?」
やっておいて今更に、悪びれもせずに進藤が言う。
「でも消毒しないとバイキン入るし」
睨んでもこづいても悪びれもせずにまた舐める。
ざらついた舌は猫みたいだと。
でもこの見境の無さは犬かなとも思う。
凍みて、凍みて、痛くてたまらないと言うのに、やめない進藤もバカだけれど、その痛みが愛の行為の続きのようで、心地よく思う自分はもっとバカだと思った。
「赤い…」
ぼくを舐める彼の舌も赤いなと思いながら、赤って言うのは欲情する色だなとぼんやりと思う。
剥けた皮の下、赤い血の通うぼくの体は、いつも、いつでも、それこそ犬のように見境も無く彼に欲情する。
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