エンターテイメント日誌

2004年08月25日(水) この辛さに貴方は耐えられるか? <オアシス>

最近は「身体障害者」のことを「障碍者」と書くらしい。「害」の字がいけないそうだ。アホくさ。まるで同和問題における言葉狩りみたいだ。被差別者、絶対弱者のユダヤ人が誰も文句が言えないことをいいことに、イスラエルを建国しパレスチナ人を虐殺している情景を想い出した。

韓国映画「オアシス」は刑務所から出所したばかりの社会に適応できないチンピラと、重度脳性麻痺の女性の愛の物語である。

イ・チャンドン(李滄東)監督は公式ページ(←クリック)にこの映画はファンタジーだと宣言しているのだが、ゆめゆめ騙されてはいけない。ファンタジーはファンタジーでもこれは超激辛。余りのハードな内容に吐気を催して途中放棄する観客がいても全然不思議じゃない仕上がりなのだ。覚悟して観るべし。しかしながら、確かに激辛ではあるが、その味は極上。筆者の評価はBである。え?どうして極上なのにAじゃないのかって?それはただ単に好みの問題だ。最高級品のキムチだというのは認めるけれど、本来キムチという食べ物自体が好きじゃないーそういうことだ。(以下映画の内容に多少触れます。未見の方はご注意を。)

主人公はどうしようもない駄目人間である。脳性麻痺のヒロインに近づくのも、「セックスが出来るなら誰でもいい」という呆れかえる動機なのである。おまけにその兄はひき逃げの罪を弟に押し付けて平然と暮らすような輩だし、ヒロインの兄は彼女をぼろアパートに残したまま、自分は妻と二人で身障者用に支給された広い新築マンションに暮らして、役所の視察があるときだけ誤魔化すために妹を連れてくるという極悪人なのだ。

そんな救いのない物語に後半光がさし始め、主人公とヒロインがそれぞれのオアシスを見出していくところにこの映画の醍醐味がある。掃き溜めに鶴というか、ヘドロにまみれた泥沼に美しい蓮の花が咲いたようなハッとする瞬間が最後に用意されており、観る者の心を打つのである。なんとも清々しい幕切れであった。

主人公を演じるソル・ギョング(薜景求)とヒロイン役のムン・ソリ(文素利)の演技は絶品。百聞は一見にしかず。勇気を出して是非御覧あれ。

余談であるが、映画冒頭に出所した主人公が豆腐を買って生で食べる場面が登場する。調べてみると韓国では刑務所から出所したらすぐに豆腐を食べる慣わしがあるらしい。豆腐は真っ白なので、罰を受けた体や心を清めるという意味があるそうだ。こういった文化や風習の違いを知ることが出来るのも、映画を観る愉しさの一つだろう。


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雅哉 [MAIL] [HOMEPAGE]