エンターテイメント日誌

2003年10月04日(土) 運命の女(ひと)

あのブライアン・デ・パルマが帰ってきた。

デ・パルマ監督はその処女作「悪魔のシスター」の頃からず〜っとアルフレッド・ヒッチコックのバッタもん(もどき=類似品のこと。例えば一見ルイ・ヴィトンかと思いきや、よく見ると、LVではなくRVと書いてあるカバン)を撮ってきた。「悪魔のシスター」や「愛のメモリー」ではヒッチコックと長年コンビを組んできたバーナード・ハーマン(「「北北西に進路をとれ」「めまい」「サイコ」)に音楽を依頼するという念の入れようである。「キャリー」に続く超能力ものの「フューリー」では映画音楽の巨匠ジョン・ウイリアムズを起用するが、明らかにハーマンのような音楽を書いてくれと頼み込んだことが透けて見えるような仕上がりだった(この時点でハーマンは既に故人だった)。その後ウイリアムズはデ・パルマと仕事をしていない。

しかし、デ・パルマはメジャー系の大作「アンタッチャブル」を撮った頃から変わり始めた。ベトナム戦争映画(カジュアリティーズ )やスパイ・アクション(ミッション:インポッシブル )あるいは出来損ないのSF映画(ミッション・トゥー・マーズ)などバラエティーに富んだ、しかし中身の薄い作品群を矢継ぎ早に世に送り出した。劇伴音楽も、たとえばエンニオ・モリコーネと組むなどしてハーマン風とは無縁なものとなった。

もう嘗てのような濃厚な味わいのデ・パルマ節にはお目にかかれないのかと淋しく感じていたら、ここにきて最新作「ファム・ファタール」の登場である。

デ・パルマ作品を特長づける華麗な映像で連想するのは俯瞰ショット(ヒッチの「北北西に進路をとれ」など)、スプリット・スクリーン(分割画面)、被写体の周りを華麗に回るカメラ、望遠レンズでの覗き趣味(ヒッチの「裏窓」)、そして瓜二つの女の出現(ヒッチの「めまい」)などであるが、「ファム・ファタール」ではその要素が全ててんこ盛りになっているんだからもう堪らない。デ・パルマ節炸裂である。観客はもうそのめくるめくワンダーランドに彷徨いこんで、ただただ眩暈のような陶酔感に浸るだけだ。(以下弱冠のネタバレあり。ご注意を)

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しかも今回はプロットが凝りに凝っている。まさかパラレル・ワールド、「if もしも」のお話だとは想っても見なかった。やられた!この作品が一番どの映画に近いかと問われたら僕は躊躇なく答える。ずばり岩井俊二の「打ち上げ花火 下から見るか? 横から見るか?」である。ラストの落ちも面白いし、けれん味たっぷりでこりゃ「ファム・ファタール」はデ・パルマ映画の集大成にして最高傑作だね。

ところで「ファム・ファタール」の音楽を担当したのは坂本龍一である。坂本がやけくそになって付けたタイトル「ボレリッシュ」なる曲は冒頭のカンヌ映画祭の場面に登場するのだが、これがもうラベルの「ボレロ」瓜二つなのである。デ・パルマの指示だそうだが、ここまであからさまに似ているのならば、既に著作権だって失効しているのだし最初からラベルの曲を使えばいいのにと想った。そして物語の中盤以降の坂本の曲は、これがまたバーナード・ハーマン風なので笑ってしまった。


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雅哉 [MAIL] [HOMEPAGE]