エンターテイメント日誌

2002年07月27日(土) 「天国にいちばん近い島」紀行<予告編>

「海をね、丸木舟をこいで、ずうっとずうっと行くんだ。するとね、地球の、もう先っぽのところに、まっ白な、サンゴで出来た小さな島が一つあるんだよ。それは、神さまのいる天国からいちばん近い島なんだ。地球のどこかで神さまをほしがっている人があると、神さまは、いったんそこに降りて、島の人に丸木舟を出してもらって、日本へ来たり、アメリカへ行ったりするんだよ。だからその島は、いつ神さまがとびおりても痛くないように、花のじゅうたんが一面にしいてあって、天に近いからいつもお日さまを浴びて、明るくて、あったかいんだよ。その島の人たちが黒いのは、どこの国よりお日さまをいっぱいもらっているからなんだよ。その島の人たちは、神さまと好きなだけ会えるから、みんなみんな幸せなんだ」

以上は森村桂著『天国にいちばん近い島』(角川書店刊)よりの一節である。この1965年に出版された小説は1984年に大林宣彦監督、原田知世主演で角川の正月映画となり、ニューカレドニアにあるちっぽけな島・ウベア島は一躍、日本人に知れ渡ることとなった。

ニューカレドニアは南太平洋に浮かぶフランス領の島々で、日本から飛行機で約8時間でフランスパンのような形をした本島(グランドテール島)の中心地、ヌメアに着く。日本との時差は2時間である。そして「天国にいちばん近い島」ウベア島へはさらにヌメアから国内線で約35分のフライトとなる。今年の黄金週間中に殺人事件があったイル・デ・パンは「南太平洋の宝石箱」と呼ばれる美しい島でこちらはヌメアから別の方向へ約20分のフライトとなる。

正直映画公開当時に「天国にいちばん近い島」を観た感想は、テンポが悪く冗長で退屈な観光映画だと想っていた。特に乙羽信子の異質の熱演と居心地悪い台詞は映画の中で完全に浮いており、強烈な違和感を抱いた。

しかし、阪本善尚さんによる撮影はヌメア、イル・デ・パン、そしてウベアの透き通るようなマリン・ブルーの海の美しさや燦々と降り注ぐ陽光の魅力を余すところなくフィルムに収めており、いつか是非ここへ往ってみたいという憧れを僕の心の片隅にそっと残してくれたのであった。

この度、遂に決心がついて旅行を計画し、十数年ぶりに映画を見直してみることになった。するとどうだろう!あれだけ詰まらなかった映画なのに、今回はエンターテイメント作品としてウェル・メイドな海洋映画として愉しめたのだから不思議なものである。大林監督はこの映画の製作にあたり、例えばミュージカル映画「南太平洋」とか、ジョン・ウエインの「絶海の嵐」「怒濤の果て」あるいはハンフリー・ボガートとローレン・バコール共演の「脱出」など往年のハリウッド製海洋映画に想いを馳せたに違いない。劇伴音楽の付け方などが特にそれを意識させるものとなっている。いつか見た夢、いつか見た映画。今はもう失われたそういうジャンルへの哀悼の鎮魂歌として、この映画「天国にいちばん近い島」にはきらりと光るものがあった。乙羽信子の違和感は相変わらずであったが(笑)。

そしてそういう想いとともに僕は一路、ニューカレドニアに旅立ったのである。


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雅哉 [MAIL] [HOMEPAGE]