エンターテイメント日誌

2001年10月02日(火) 天海祐希の飛躍

天海祐希は宝塚歌劇団時代、異例の大抜擢で月組トップに若くして上り詰めた絶大なる人気を誇る男役で、「10年にひとりの逸材」と評された。

本人としても退団後の芸能活動に期するところはあったのだろう。宝塚時代のファンに「もう皆様と舞台でお会いすることはないでしょう。」等と発言し、物議を醸した。しかし、彼女が宝塚退団後出演した映画は「クリスマス黙示録」「MISTY」「必殺!三味線屋・勇次(あの野村サッチーと共演!)」「黒の天使 Vol.2」といった凋落ぶり。どれもB級、C級の作品ばかりである。特に「必殺!三味線屋・勇次」に至っては惨憺たる出来で、「映画ファンをバカにしている」の声まで上がった。余程彼女には企画段階でシナリオの善し悪しを判断する能力(読解力)がないのか、取り巻きのブレーンにろくな奴がいないのだろうと僕は呆れ果ててその様子を見ていたものだ。CMも不発、テレビ・ドラマでも全く人気が出ずに最近は取るに足らない脇役に甘んじていた。結局二度と出ないと言っていた舞台も「マヌエラ」、「ピエタ」、野田秀樹の舞台「パンドラの鐘」と立て続けに出演、「遂に天海も命運尽きたか」と思っていた矢先にその異変は起こった。

今年の天海の活躍には目を見張るものがある。まず角川映画「狗神」。僕は未見だがその演技力は高く評価されたようだ。そして、何しろ天海に舌を巻いたのがBS-iで放送された「柔らかい頬」と映画「連弾」である。どちらも完成度の高い傑作で天海の演技力も光っていた。この両者に共通する天海演じる主人公の性格設定は「子供の事を顧みない身勝手な母親役」である。妻の側の不倫が原因で離婚するという設定も同じである。開き直った演技というべきか、あるいは本人の地のままなのか(笑)、実にはまり役であった。

「柔らかい頬」の原作は桐野夏生の書いた直木賞受賞作である。映画監督の長崎俊一が巧みに脚色し3時間半に見事にまとめ上げた。自分の心ない一言で幼い娘が傷つき、失踪したのではないかと思い悩み、探し続ける母親の茫漠として暗澹たる心象を天海は見ていて痛いほど切実に演じ切った。荒々しい自然描写がその心象風景となり、両者の増幅効果で作品を印象深いものにした。

一方「連弾」は竹中直人監督作品で、離婚という重いテーマながらコメディと呼んでもよいような軽やかなタッチで、「クスッ」と可笑しいホーム・ドラマに仕上がっていた。天海の傍若無人、勝気で我儘な母親ぶりが結構笑えた。コメディ・センスもばっちりである。劇中登場人物たちが鼻歌で唄う竹中直人作詞・作曲の小唄の数々も楽しい。「セミ・ミュージカル」と呼んでよいノリである。それでいてラストはちゃっかり泣かせてくれる名場面を持ってくるのだからニクイねえ。小泉首相じゃないけれど「感動した!」。

そして年末には大作映画「千年の恋 ひかる源氏物語」が公開される。天海が演じるのは光源氏。宝塚以来久しぶりの男役である。宝塚を捨てたつもりの本人にとっては不本意であろう。しかし、公開されたスチール写真で見る天海の光源氏は息を飲むほどに美しい。さすがである。これで巷での彼女の名声が高まることは間違いない。

賭けてもいいが今年彼女は必ずいくつもの映画コンクールで主演女優賞を勝ち取るだろう。縦横無尽の大活躍はそれに十分値するものである。今から気が早いが心から「おめでとう」と、そう言っておこうか。


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雅哉 [MAIL] [HOMEPAGE]