HOME*お天気猫や > 夢の図書館本館 > 夢の図書館新館

夢の図書館新館

お天気猫や

-- 2005年06月13日(月) --

TOP:夢の図書館新館全ての本

『ザ・インタープリター 』

☆国連総会を舞台にした大統領暗殺計画

映画は未見。本の方には解説も何も付いていなかったが、どうやら映画の原作ではなく、ノベライズ版のようである。

国連通訳(インタープリター)のシルヴィアが偶然耳にしてしまった大統領暗殺計画。ターゲットはアフリカのマトボ共和国の独裁者ズワーニ大統領。国連を舞台にした大胆な暗殺計画の真偽を疑いながらも、シルヴィアの護衛とテロ阻止のために捜査を開始するシークレットサービスのトビン。暗殺計画は本当なのか?シルヴィアの過去には何が?シルヴィアの失われた過去と、愛するものを失ったトビンの喪失感が重なり合うことはあるのか?

ノベライズ版のようなので、するすると読み進んでいく。するすると読み進んでいくが、背景が背景なので、いろいろと現実の社会に思いは広がっていく。

小説の中のマトボの「民族対立」「民族浄化」の構図はルワンダのツチ族とフツ族の抗争を彷彿とさせるし、つい最近の新聞紙上でもアフリカのどこかで2万人規模で子供の誘拐が現存し、非情な少年兵に仕立てられ、抗争の最前線に送られているという。逃げ出しても再び誘拐された少年、逃げようとした仲間を殺さざるを得なかった少年、たとえ保護されても手足を失い深い傷を負った子供たち。なによりも、身体は救出されたとはいえ、子供たちは癒えることのない深い深い闇のような心の傷に苦しんでいるという。

軽く読み進み、スリルを楽しむことはできるのだが、どうしても「そこ」には現実の世界があり、現実の国連の限界があり、一番の弱者である子供たちの犠牲が今も続いている。そんなことを思いながら読むと、エンターティメントとしてのスリラーの限界があり、もっと、シビアな社会派スリラー、政治サスペンスのような重厚な読み応えを求めてしまう。

そうすれば今度は、フィクションではなく、ノンフィクションとしての、ルポルタージュを私は求めるのだろう。求めれば求めるほどに、テーマは重くなり、解決策の見えない現実が立ちはだかり、そこには決して幸せな結末はないのだろうけど。

『ザ・インタープリター』に戻ると、秘密を抱えたまま国連通訳になったシルヴィアの言葉に「言葉の力を信じたから通訳になった」という一節がある。国連の場でできる限り、言葉の誤解を排し、平和的な問題の解決の一助となりたいというシルヴィアの信念。

私も言葉の力を信じたい。
いつか人々の心を大きく揺るがすような、強い力を持った言葉の持ち主が現れることを。震えがくるような強い意志を持ったパワーのある言葉が世の中を変えていく日を。(※例えばキング牧師の言葉。最近キング牧師の演説を収録したCDを聞いた同僚はその言葉の力に圧倒されたと言った。今度そのCDを貸して貰うことになっている。)

『ザ・インタープリター』はフィクションで、ライトに読み進められるエンターティメントなサスペンスだけれど、立ち止まって大事なことを考えることができた。少しだけだけど。国連というものについても、教科書や新聞・ニュースより、直感的に理解できたような気もする。

気分転換に読み流すにもお薦め。
国際政治に興味を持つ、最初の一歩としても意外といける本でした。

え?
トビンとシルヴィアの「過去に傷を持つ同士の大人の恋模様(あらすじより)」?いろいろ考えるのに忙しくて、ロマンスの行方どころではありませんでした…(シィアル)


『ザ・インタープリター 』 著者:デイヴィッド・ジェイコブズ / 訳者:富永和子 / 出版社:徳間文庫2005

2003年06月13日(金) 「泣かないで、くまくん」
2001年06月13日(水) 『六番目の小夜子』 (2)

>> 前の本蔵書一覧 (TOP Page)次の本 <<


ご感想をどうぞ。



Myエンピツ追加

管理者:お天気猫や
お天気猫や
夢図書[ブックトーク] メルマガ[Tea Rose Cafe] 季節[ハロウィーン] [クリスマス]

Copyright (C) otenkinekoya 1998-2006 All rights reserved.