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夢の図書館新館

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-- 2005年03月31日(木) --

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『魔法使いとリリス』

原題は『The Shape-Changer's Wife』とあるように、 姿を変える魔法が大きな意味をもって語られる。 邦題の「魔法使い」とは、どちらの方なのかと最初迷ったが、 少し読めば謎はとけた。 金髪で社交的な若い魔法使い、善良なるオーブリイのほうだ。 そして、「リリス」は、老魔法使いグライレンドンの若く美しい、 風変わりな妻。

野心に動かされたオーブリイは、姿を変える魔法を学ぶため、 はるばると、風評かんばしくないグライレンドンの館を訪ね、 滞在することになる。評判どおりの男だった。 しじゅう留守をしているグライレンドンのほかの住人は、 感情のない妻のリリス、 家事が下手な召使いのアラクネ、下男の大男オリオン。

ヒロインに悪魔めいた「リリス」という名を選んだのだから (名付けたのは老魔法使いであるが)、 そこには簡単に解けない謎があるはずで、 後半は謎が徐々に明らかにされ、結末に向けて、 謎の答を知るだけでなく理解することに主題が移る。 しかも、この知的で静謐な物語の著者はアメリカ人で、 「シン」(sinn だがsinに通じる)というのだから、 デビュー作としても巧妙だ。

男女がお互いを理解することがいかに・・・というのも このシンボリックなファンタジーのテーマだろう。 男女の異質さと、相手によって与えられる変化を、 侵犯と見るか、学びととらえるか。 人はどこまでも、生まれたままの望みと方向に正しく導かれて 生きてゆかねばならないのだろうか? そういう風に生きてゆける人もいるだろうけれど、 ほとんどの人は、変化を受け入れ、そこになじむ。

ロマンティック、と呼ぶにはもの悲しいけれど、 これは三角関係のドラマでもある。 『オペラ座の怪人』しかり、やがて壊れるトライアングル。

「魔法を学ぶ」という目的からは、オーブリイに同情しつつも、 やがてその体験が魔法使いとしての彼の後半生を決定づけるだろう ことを思い、それで良かったのだとも納得したり。 つまり、彼の二人目の師匠が、冷血非情なグライレンドンであり、 人格者で技術も比類なき賢者、シリットではなかったこと。

などと言いながら、肝心のリリスとオーブリイの純愛 ロマンスについて、ちっとも言及しないではないか、と 言われそうだが、それはどうぞ読んで味わってほしい。 リリスの緑の瞳に魅了されながら。(マーズ)

※ウィリアム・クロフォード賞受賞。


『魔法使いとリリス』著者:シャロン・シン / 訳:中野善夫 / 出版社:ハヤカワ文庫2003

2004年03月31日(水) ☆春はロマンスの季節?
2003年03月31日(月) 「南の国へおもちゃの旅」

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