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夢の図書館新館

お天気猫や

-- 2004年04月12日(月) --

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『椰子・椰子』(その3)

始終きょろきょろしている。 だから、交差点でふと上空を見上げ、もやのような 白雲のなかを、うっすら飛行機雲を残して 音もなく見え隠れしながら飛ぶ飛行機を見つけても、 周囲にたくさんいる人は、だれひとりとしてそんなものを 見てはいない(目線から察するに)し見たくもなさそうだ という事実に、 「私はこれではいけないのではないか」 とうなだれずにはいられないこともある。

世の中には「変な人」がいるのだから、 変なものを書く人もいるわけで、 あまりにも奇妙だったりファンタスティックだったり こわいお話だったりすると、どこか救われる。 あまり裏側が見えないようになっているのが ちょうどいい。 それに、世の中にはあまり胸をはって口に出せないこともある。 だから、ちょうどいい。

などとたとえ話をだらだら書いているが、 『椰子・椰子』は、足穂の小編集を 日常の変な話に置き換えたような架空日記である。 主人公の「わたし」は家族持ちの女性らしいが、 四六時中不思議な動物や人と出会い、 あるいは恋人がいたりして、家族の影はぼやけている。

巻末の対談によれば、「やし・やし」というのは 川上さんの長男が、子どものころ、「おやすみなさい」が まだうまくいえなくて、こう言っていたそうだ。なるほど。

こんなきてれつなうそっぱちの世界を、 しかも山口マオの絵で楽しめるというのは、 私には縁がないが、酒飲みの快楽に似ていそうだ。

私を含め、自分がどこか変わっているということが 才能なんかではちっともなくて、 「これではいけないのだが、どうにかこうにか このままやっていくしかないのだろう」と ネガティブに自覚している歳を経た大人たちには、 いいくすりだろうと思うのである。 (マーズ)

→『椰子・椰子』1 →『椰子・椰子』2


『椰子・椰子』 著者:川上弘美 / 絵:山口マオ / 出版社:新潮文庫2001

2002年04月12日(金) 『地獄の悪魔アスモデウス』

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