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夢の図書館新館

お天気猫や

-- 2003年05月22日(木) --

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『アンモナイトの谷』

☆ここにいなかったかもしれない、自分。

15歳のジェームズの毎日は、一流選手をめざして、 飛び込み競技の練習に明け暮れている。 現在の目標は、前逆宙返り二回半。 ロンドンのコーチにも、天性の才能を認められている (と思う瞬間がある)。 なにより、父さんも母さんも、ジェームズの将来を楽しみに、 トレーニングを応援してくれている。

でも、ジェームズは、この家族が本当の両親でない ことを知っている。それは秘密ではなかったから。 ただ、自分を産んだ母親のことは、誰も知らなかった。 赤ん坊のジェームズは、捨てられたのだったから。 ジェームズがもっている母とのつながりは、 手のひらにすっぽりおさまる、アンモナイトの化石。

やがて、ある事件をきっかけに、ジェームズは 自分の故郷と母親探しの旅に出る。 ほとんど、家出に近い形で。 中盤以降は、山々に囲まれたイギリスの田舎に舞台を移し、 ジェームズの彷徨い、格闘する姿を描く。

ストーリーは、自分探しをするジェームズを軸に、 産みの母の、当時の独白がはさみこまれて進む。 なぜ、彼女が生まれたばかりの息子を捨てることになったのか、 私たちは、ジェームズより先に知っているのだ。 だから、やがてジェームズもそこへと導かれてゆくことを願うのだが、 たったひとりの胸にしまっておくべきことがらもあるし、 伝えきれない思いもある。

人が動き出し、あがこうとするとき、 当事者以外の誰かがあらわれて、助けになる。 邪魔する者もいるけれど、 ちょうど高い板から飛び込みをするときのように、 あれこれと失敗を恐れないことが肝心なのだろう。 そんなアクションを起こすのに遅すぎることは ないかもしれないが、ぴったりの時期というのもまた、 あると思う。

蛇の石と呼ばれるアンモナイトの化石は、 はかりしれない太古からの時間とともに、 そばにいた人たちの伝えきれない感情の揺れを、 渦になった蛇のように、その内部に秘めているのだろうか。 (マーズ)

バーリー・ドハティ公式サイト→http://www.berliedoherty.com/


『アンモナイトの谷』 著者:バーリー・ドハティ / 訳:中川千尋 / 出版社:新潮社

2002年05月22日(水) 『いつもキッチンからいいにおい』
2001年05月22日(火) ☆ヤン・ファーブル

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