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夢の図書館新館

お天気猫や

-- 2002年06月12日(水) --

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『幽霊宿の主人-冥境青譚抄-』

☆花と幽霊の誘いは断れない。

前から機会があれば書きたかったのだけど、 いわゆる少女漫画には、伝統的なオチとして、 彼あるいは彼女は実は幽霊だったのです、 というのがある。 そしてまた、文学から受け継いだ 櫻の樹の下には─の幻想も。

人ではないもの、生きていないものの姿が見える秋月青之介。 彼のゆくさきに現れる、花と幽霊の物語。

おなじく幽霊譚を集めた『燕雀庵夜咄』を先に 読んだのだが、物語的なつながりはないものの、 ときを経た二作品を読み比べることになった。 昭和の作品も含めて初期のものを集めた『燕雀庵夜咄』には、 花のエッセンスが香っており、『幽霊宿の主人』には、 花に人の情が移ったとでもいうのだろうか。 読んでいて、約束でもあるかのごとく、山場のたびに ほろりとさせられ続けた。 それは、人の抱える想いや、そこにつながって切れることのない 森羅万象、そして最後に還ってゆく、人として生きる想いへの愛惜を、 きちんと描ききってくれたからではないだろうか。

なんとなく、あれは幽霊だったのです、ではなく。 幽霊にだって、幸せになる権利はあるのだと。

波津彬子は日本の古きよき世界を舞台にした短編を 得意とする作家で、長い作品も、連載というよりは連作である。 (といって外国物もレトロで好きなのだが) そして波津彬子の描く話は、名の通り、華があって、いさぎよい。 月刊誌を読んでいた頃はよく見ていたのに、 しばらく後を追っていなかったあいだに、 こんな風に自分の世界を創り込んでいたのは、 やはり、いさぎよく、強いことだと思う。

金沢の人だというのも、うなずける。

長年描いていると、どこかで、意に添わぬ世界に 片足を踏み込まされたり、そのまま戻って来れなかったり ということだってある。 しかし、描きたい世界を信じて、作家本人も周りも その熱意を後押しすれば、他の誰にも描けない世界を 残すことができるのだ。 波津彬子がそうであるように。

これは蛇足。 猫の姿にだけは登場人物たちの持つような きらびやかさも繊細さもなくしてあって、面白かった。 (マーズ)


『幽霊宿の主人-冥境青譚抄-』『燕雀庵夜咄』 著者:波津彬子 / 出版社:白泉社文庫

2001年06月12日(火) 『ネバーランド』

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