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夢の図書館新館

お天気猫や

-- 2001年06月12日(火) --

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『ネバーランド』

☆少年たちの透明な悲しみ

人生の中で、子供でいられる時間は短い。 その当然、子供であるべき時間をも、 子どもとして過ごすことが許されない少年や少女がいる。 子どもとしてあることが、 可哀想なほど、過敏な心を持ち、 何をするにしても、無邪気なままではいられない、 そんな子どもたち。 あるいは、周囲の大人たちによって、 傷つけられ、子どもであることを容赦なく、 奪い取られた子どもたち。

現実の世界はくすんでいる。 澱のように、どんどんと、日々の疲れが溜まっていき、 中野重治ではないが、 悲しみも、なんだか薄汚れて見えてしまう。

小説の中、 少年たちは、そのまだ薄い肩には 重すぎる秘密を担い、 ほんとうの思いを隠している。 人を傷つけることで、 さらに己を深く切り裂き、 胸を締め付けられながらも、 語りたいのに語りようのない、 秘められた悲しみには、 無頓着な風に笑う。 それでも、ひとりになれば、 思いの底に深く沈み込んでいくのに。

透明でしなやかで、 せつないけど、清々しい。

ただ、彼らが抱える悲しみを共有するには、 私は随分と遠くにいる。 悲しみの耐性があるとはいっても、 彼らより、もっと悲しい思いを 私はもう、知っているから。

最後まで書いて、 ふと、『永遠の』」(天童荒太 / 幻冬舎)を思い出した。

子どもでいられるというのは、 人生の中での、かけがえのない宝物だと、 今になって気付く。 子どもでいることも、結構しんどかったのに。

P.S. 著者によると、 『トーマの心臓』 (萩尾望都 / 小学館 )をやりたかったのだそうだ。 繊細できれいで、秘めた悲しみに沈む少年たち。 男子校で、寮生活で、古めかしい校舎。 現実には、なさそうで、やっぱりない、ネバーランドだ。(シィアル)


『ネバーランド』 著者:恩田陸 / 出版社:集英社

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