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夢の図書館新館

お天気猫や

-- 2001年11月29日(木) --

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『青蛙堂鬼談』

私が子供の時読んだ怪奇アンソロジーの中で 一番他と違っていて変な話だと思ったのが 『生首にかわったすいか』という作品でした。

話の前半は江戸時代の記録に載っていたという 西瓜が生首に見え、西瓜に戻り、また生首に見えて 西瓜に戻った、と言う話。
別に理由も何もなくて単にそんな事があった、と言うのです。
後半はその話を聞いて 「生首だと思い込んで見たからただの西瓜がそう見えたんだ」と 合理的な説明する青年と友人の体験する怪異。
どちらの話も「すいか」が絡むだけで関係はないし、 どちらの話も理由も因縁も何も説明をせずに終ります。

なんなんだろうなあこの話。
6歳の私は首をひねりました。

怪異の姿をはっきり見せず、その正体が説明されないのが 実は最も気持ち悪いという事は後になって知りました。
そういう「一体なんだったんだろう」という怪談の名手が、 実は江戸のシャーロックホームズストーリー、 『半七捕物帳』で「捕物帳」というスタイルの 推理小説を生み出した岡本綺堂。
同じ様に怪奇な状況を作り出しておいて 一方では合理的な謎解きがなされ読者は膝を打ち、 一方では不可解なまま謎が残され読者は肌を泡立たせる、 優れたミステリ作家は同時に優れた幻想作家でもあります。

様々な職種年齢の人々がいろいろな場所や時代の あれはいったい何だったんだろう怪談を 趣向を凝らして語る場所が『青蛙堂』。
現代ホラーとはひと味違った語りの妙技が繰り広げられます。
青蛙堂で披露された以外の名作怪談も収録されていて、
名高い『白髪鬼』なども載っています。

生首に変わってしまう西瓜の話もありました。
そういえば最後の

どうでも一度は荒れそうな空の色が、私の暗い心をおびやかした

という一文が、6歳の時からずっと心に残っていました。
やっぱり子供心にも響く、並々ならぬ名文だったんですねえ。(ナルシア)


『岡本綺堂集/青蛙堂鬼談』 著者:岡本綺堂 / 出版社:ちくま文庫

2000年11月29日(水) ☆ Web書店

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