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夢の図書館新館

お天気猫や

-- 2001年10月19日(金) --

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『頭蓋骨のマントラ』

─ 人生でもっとも大事なことは、
昼の魂に夜の魂を引き合わせることだ ─
(本文より)

舞台はチベットのラドゥン州。 ヒマラヤのふもと、まさに聖なる場所。 中国に統治されるチベットの労働収容所を舞台に、 政治的(北京的)理由で服役中の中国人元刑事、 単(シャン)を探偵役に、 猟奇的(あるいは密教的)殺人事件の謎を追うストーリー。

単は、かつての職業能力を買われて、 収容所の仲間、チベットの僧侶から成る四〇四部隊の安全とひきかえに 上層部から捜査権を押し付けられる。 伝説の荒らぶる魔神タムディンのしわざに見せかけ、 検察官を葬ったのは誰か、その理由は。

であるが、これまた当然ながら、 実際に中国・チベットで取材して書かれた本書への 興味はそれにとどまらない。

知りたいのだ。

中国がどんな風に、あの時以来、彼らを制圧しているのか。 なにが反動的とされるのか。 壊された寺院や、僧たちは今どうしているのか。 収容所で何が行われているのか。 そして、 あの聖なる山脈の背を満たしてゆくマントラの響きに込められた、 祈りのメッセージを聞きたいのだ。 後半では現在と過去のポタラ宮殿も描写される。

ミステリとしてアメリカ探偵作家クラブ賞・最優秀処女長編賞を 受けた本書は、ストーリーテリングや謎解きの醍醐味も当然のことだが、 チベットと中国の闇を舞台に、 ミステリという形式の影へ、ごく自然に埋め込まれた 「夜の魂」の魅力が、本書の何よりの輝きだと思う。 それを期待して読む読者に、 報いてくれる本である。

最後になってしまったが、主人公である単の 繊細でストイックな人生観は、彼が経験してきた国家の裏切りや 家族との別離、奪われた仕事と自由=人生のすべて、 と言い換えてもいいが──そういった試練に、 本質的には影響されていない。 単本人は、そんな風には考えないだろうけれど、 だから魅力的なのだ。 もういちど、単に会ってみたいと思わせるゆえんである。(マーズ)
※第2作は『Water Touching Stone』(2001年英語版出版)


『頭蓋骨のマントラ』(上・下) 著者:エリオット・パティスン / 訳:三川基好 / 出版社:ハヤカワ文庫

2000年10月19日(木) 『時間に強い人が成功する』

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