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夢の図書館新館

お天気猫や

-- 2001年10月22日(月) --

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『死の泉』

この物語のテーマとなる怪物は。 人間ならば成長によっていずれ失うはずの天使の歌声を 永遠に留めた奇跡の怪物。

数年前に『死の泉』が出版されて大評判になった時は そのハードカバーの巨大さと ナチの医療施設と人体実験という設定の禍々しさに 手を出しかねていたのですが。 実際読んでみると、前半は厳しい現実に背を向けて 名画や名曲や見事な調度に囲まれた環境で 幼い子供達を慈しむ若い母親の視点ですし、 後半はいずれ劣らぬ美形揃いの若者達の アクションシーンがメインになるので、 設定や構造の重苦しさにかかわらず 意外に軽やかなタッチで流れる様に読む事ができます。 幻想美の大家の皆川先生、年ごとに軽味が増していませんか? ヒロインがかいまみる幻影の輝かしさは格別で、 猟奇度は島田氏の『暗闇坂』に比べれば軽い軽い (比較対象の相手がキツすぎる?)。

自らの身に求めても決して得られないもの、 完全なアーリアンとしての美しい外見と美しい歌声。 美に焦がれて手段を選ばぬ医師と 彼が手に入れようとした美しい者達の図式は 『オペラ座の怪人』そのものだなあと思っていたら、 まさにミュージカルの名場面がナチス・ドイツの旧要塞の あちこちで再現されておりました。 日本の某古典ミステリでおなじみのモチーフも顔を出します。 文春ミステリベストで一位となった作品なのですが、 ミステリアス ではあるけれども特に謎はない 耽美的時代物サスペンスだよなあ、と途中まで思っていたのですが、 ちゃんとミステリにもなってましたよ。

崩壊する第三帝国と響き渡るドイツ・クラッシック、 残酷な童話と崩れた古城と地下迷宮、 選ばれた金色の髪と青い瞳、天に届くソプラノ、 恐ろしい美の長編は秋の夜長にこそふさわしい。(ナルシア)


『死の泉』 編者:皆川博子 / 出版社:ハヤカワ文庫

2000年10月22日(日) 『平成お徒歩日記』

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