さて葬儀である。 さらに状況が悪化した。 生まれて初めて見る親類がいたのだ。 今度は相手もこちらも知らないときている。 共通の話題は、ぼくの父が独身時代に、その人の親から世話になったということだけである。 ご存知の通りぼくは父を3つの時に亡くしているため、父の話題を持ってないのだ。 それに、相手も父を詳しく知っているわけでもない。
そのことをぼくに知らせたのは従姉妹だった。 葬儀前に従姉妹が「しんちゃん」とぼくを手招きして呼ぶので、行ってみると、そういうことだった。 「親戚やけ挨拶しときなさい」というので挨拶を交わしたが、妙にぎこちない挨拶になってしまった。
とにかく、ぼくは早く葬儀から解放されたかった。 ドラマ『結婚できない男』で、主人公の信介が、たくさんの親戚が集まる法事のあとに「この八つ墓村から早く出たいんだ」というシーンがあるのだが、それを思い出していた。
そんなことを思っている時だった。 後ろのほうから「しんたさん」と、ぼくを呼ぶ声がする。 振りかえると、そこに若い女の子が立っていた。 見ると前の会社でバイトしていた子である。 そうだった。忘れていたが、会社にいた頃、ぼくの従姉妹半にあたる子がバイトをしていたのだ。
その店に赴任した当初は、お互いにそういうことは知らなかった。 いつだったか、その子が痴漢に遭うか何かの事件に巻き込まれたことがある。 その時にその子の母親が事情を聞きに、店長を訪ねて来た。 ぼくはその日ちょうど休みだったので知らなかったのだが、事務所に通され母親は、そこでぼくのネームプレートを見つけた。 そこでその母親は、家に帰ってから娘に「親戚と同じ名前を事務所で見つけたんよ。本人かも知れんけ、聞いてきて」と言ったらしい。
翌日、娘が、 「あのー、しんたさんって、○○町に住んでいるんですか?」と聞いてきた。 「何で知っとると?」 「うちの母、T子というんですけど」 「T子…?」 「ええ、旧姓はTです」 「えっ、もしかしてT子ねえちゃんのこと?」 「そうです」 ということで、親戚であることが判明したのだった。
さて、ようやくここで、ぼくはコミュニケーションのとれる人間を見つけた。 その頃の話や、その頃のバイト生の消息を聞いたりと、これでけっこう時間を消費することが出来たのだった。
その後、葬儀が終わり、初七日も終わらせ、昨日から続いた八つ墓村から解放されたのだった。 次は四十九日の法要になるわけだが、もう行きたくない。
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