月に二度ほどハローワークに行っている。 今日も行ったのだが、なかなか琴線に触れるような企業は見つからない。 年齢が年齢だから見つからないわけではない。 年齢は関係なく、ぼくが適職だと思っている販売、営業、事務といった職種の登録数が少ないのだ。 しかも、登録している会社は、3ヶ月前とほとんどいっしょである。 こういう職種は人気がないのだろうか? それとも登録している企業の人気がないのだろうか?
そういえば30年前にも職安に通った時期があるのだが、あの頃二度スカウトマンに声をかけられたことがある。 最初の人は笑顔で「いい仕事見つかりましたか?」などと言って近づいてきた。 ぼくは無愛想に「いいえ」と答えた。
「今は不景気だからねえ」 「そうみたいですね」 「ところで君は営業とか興味ない?」 「営業ですか?」 「営業と言ったって、別に難しいことをするわけじゃないんよ」 「何をするんですか?」 「カタログ持って、一軒一軒家を回るだけ」 「売らんといけんのでしょ?」 「いや、別に君が買ってくれと言う必要はない。君は主婦ウケする顔をしているから、カタログ持って行くだけで、あちらから売ってくれと言うと思うよ」 「何のカタログを持っていくんですか?」 「ミシン」 「いや、いいです」 「君ならいいセールスマンになれると思うんだがなあ…」 そう言い残して、彼はどこかへ行った。
ぼくが職安から出ようとした時、ロビーから例のスカウトマンの声が聞こえてきた。 他の人に声をかけているようだった。 彼に気づかれないように近づき、それとなく聞いてみると、 「…君は主婦ウケする顔をしているから…」 と、ぼくに言ったことと同じことを言っていた。 彼の目には、他人の顔はすべて主婦ウケする顔に映ったのだろう。
もう一人のスカウトマンは、えらく体のがっしりした人だった。 その人は遠くからぼくをじっと見ていた。 ぼくがその視線に気づくと、彼は近寄ってきた。 「君はいい体してるねえ。何かやってるの?」 「高校時代に、柔道をやっていましたけど」 「柔道か、それは頼もしいねえ。実はね、君にピッタリの仕事があるんだよ」 「何ですか?」 「自衛隊」 当時のぼくは自衛隊に対していい印象を持っていなかったので断ったが、今なら行っていたかもしれない。
こういうスカウトマンは、今でもいるのだろうか? ハローワークに行くのは今日で6回目だが、いまだそういう人にはお目にかかってはいない。 まあ、この白髪頭だから、近寄ってこないだけのことかもしれない。
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