| 2006年02月27日(月) |
レジャーモービルの女(4) |
さて、スタジオを出たぼくたちは、再びショップへと行った。 しばらくギターなどを見ていたのだが、その時変なことを小耳に挟んだ。 ぼくのいた場所から少し離れた場所で、ショップの人たちがテープを聴いていた 。 一人の男が「これ聴いてみて」と言った。 しばらく沈黙が続いた後に、もう一人の男がおもむろに口を開いた。 「いい曲だね。誰の曲?」 「○○くんの曲」 「ああ、○○くんね」 「今回のポプコン、うちのショップはこれで決定らしいよ」 「そうか」
「!!!」である。 応募受付期間にも関わらず、もうこのショップの代表は決まっていたのだ。 じゃあ、ぼくたちの録音は一体何だったのだろう。 何のためにいやな鼻髭の前で、緊張して録音しなければならなかったのだろう。 この時初めて、ポプコンというのは一般に門戸を開いているのではなく、ヤマハに貢献している人にだけ開いているのだと思った。 確かにその日の『レジャーモービルの女』は最低だった。 だが、それでもわずかに希望を残していたし、また次の機会に頑張ろうとも思っていたのだ。 そういうものが、彼らの会話を聞いて、すべて吹っ飛んでしまった。
『残念ながら、今回は…』というメールが届いたのは、録音の日から、そう時間の経ってない頃だった。 そのことをMさんに言うと、Mさんは「そうか。でも、これで自信ついたやろ。次回がんばり」と言ってくれた。 だが、次回はなかった。 ぼくはミュージシャンを目指して、他の道を探ることにしたのだった。 当然である。
その後、就職したぼくは、楽器販売の担当になった。 何年か経った頃、一度Mギターの協賛を得てフォーク・コンテストを企画したことがある。 その時、学生を中心とした十数組のアマチュアミュージシャンが集まった。 開会宣言をすることになったぼくは、マイク越しにこう言った。 「このコンテストをポプコンを超えるコンテストにしていきたいと思っています。ここに集まっている人たちも、これに参加することで腕を磨いていってほしいと思います。いいかみんな、ヤマハには絶対負けるなよ!」
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