「しんちゃん、チューしよ、チュー」 昨日のことだった。 今働いている店のメンバーでやる、おそらく最後になるであろう飲み会が行われた。 会は大いに盛り上がったものの、その間2時間と最後にしては短いものだった。
さて、冒頭のセリフだが、これは誰が言ったのかというと、ユリちゃんである。 例のごとく酔っぱらってしまい、誰彼なく抱きついていた。 最後に来たのがぼくの座っているテーブルだった。 ユリちゃんはぼくの横に座ると同時に、「しんちゃーん」と言って抱きついてきた。 そして二度、上のセリフを言ったのだった。
「チューなんか、せんでください」 「いいやん、チューしよ」 「だめ」 「うーん」 と言って、ぼくのほっぺたに唇を押しつけてきた。 「あー、もう…」 ぼくはそのテーブルにいた他の人に、「口紅ついてない?」と聞いた。 「大丈夫、ついてないよ」 「ああよかった」
「ユリちゃん、またあんた、お酒に飲まれとるね」 「そんなことないよー」 「いっつもこんなんやん。前は柱に抱きついとったし…」 「柱、柱…?柱なんかにせんよ」 「いいや、柱に向かって『今日は帰りたくない』とか言いよったやん」 「そんなことないよー。ねえしんちゃん、今日は帰りたくない」 「またぁ。ちゃんと家に帰りなさい」 ぼくがそう言うと、またしてもユリちゃんは「チューしよ」と言った。 「チューは、もういい」 「何で?」 「自分のご主人にしたらいいやん」 「主人はじいさん。しんちゃんは若いけね」 そう言って、またしても唇をぼくの頬に押しつけてきた。 その後、自分の席に戻ったユリちゃんは、そこにいた女性を捕まえて『チュー』をしていたのだった。
帰り際、ユリちゃんはぼくに「しんちゃん、カラオケ行こ」と言ってきた。 身の危険を感じたぼくは、「おれ、まっすぐ帰るけ、ユリちゃんも大人しく家に帰り」と答えた。 「カラオケー」 「じゃあ、お疲れさん」 そう言って、ぼくは足早に駅に向かったのだった。
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