Kさんが薬局から出たので、今度はぼくが薬局に入っていった。 「よしこ先生、Kさん来たでしょ?」 「うん」 「何か言ってましたか?」 「わたしがおごると言ったって…」 「そうでしょう。やっぱり約束しとったやないですか」 「‥‥」 「しかし、せっかく行くんだから、大勢で行った方が楽しいですよね」 「えっ!?」
その時、よしこ先生の後ろに、化粧品売場の中リンという子がいるのが見えた。 そこでぼくは中リンに声をかけた。 「おーい中リン、よしこ先生が今度おごってくれるらしいぞ」 中リンはこちらを振り向き、嬉しそうな顔をして、「えっ、ほんとですか?」と言った。 「ほんと、ほんと。『何人でもドーンと来いっ!』らしいぞ」 その間よしこ先生は、例のごとく口がポカンと開らき、目が点になっていた。
その後もぼくは、よしこ先生がうちの店に入った時に何度も薬局に足を運んで、「いつ行きましょうか?」と聞いた。 よしこ先生はちょっと困った顔をしながらも、「出来たら給料日明けのほうがいいんやけど…」と言った。 「そうですね。こちらもそのほうがいい。棚卸しもあることだしね」 「ねえねえ、しんちゃん」 「はい」 「で、何人行くようになったと?」 「えーーっ!?先生知らないんですか?」 「うん、知らない」 「それは困りますねえ。あの時、よしこ先生が『わたしが幹事やるけ』と言ったじゃないですか」 「えっ…。そ、そうやったかねえ…」 「そうですよ。幹事なんだから、ちゃんと人数把握しといてくださいよ」 「‥‥。はい…」
「ということで、いつ行きますか?」 「ねえ、しんちゃん」 「はい」 「一人どのくらい見とったらいいと?」 「まあ場所にもよるだろうけど、だいたい4,5千円といったところじゃないですか」 「そうよねえ」 「10人で4,5万円ということですね」 「えーっ、10人も行くと?」 「そのくらい人数いたんじゃなかったですか?」 「そうやったかねえ」 「“5人タカシ”でしょ。薬局のパートさんが3人でしょ。中リンでしょ。それと先生で、ちょうど10人じゃないですか」 「ああ、そうやねえ。4,5万か…」 そう言うと、先生は深いため息をついた。
それを見て、意地悪しんたは、「えっ、先生行かんとですか?」と聞いた。 先生は「い、いや行くよ」と言う。 「そうでしょ。10人で行くと楽しいですよね」 「うん…」 「何を辛気くさい顔してるんですか。この間みたいに『ドーンと来いっ!』」と言ってくださいよ」 「‥‥」
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