相変わらずよしこ先生の来ている時だけ、ぼくは薬局に行っていた。 だが、“5人タカシ”が嘘だとばれ、名前ネタで遊べなくなったので、何となく面白くない。 そこで、次の作戦を練ることにした。
ある日の朝、会社に行くと、よしこ先生は早々と出勤していた。 「よしこ先生、おはようございます」 「あ、タカシ…、いや、しんちゃんおはよう」 「早いですねえ」 「バスが早く着いたんよ」 「へえ、で、例の件どうなりました?」 「えっ、何の件?」 「あっ、もう忘れたんですか。この間ちゃんと約束したじゃないですか」 「約束…。わたし、何かしんちゃんと約束したかねえ?」 「困りますねえ」 「えっ、えっ、何やったかねえ?」 「後で薬局に行きますから、それまでに思い出しといてくださいよ」 「‥‥、はーい」
それから1時間ほどして…。 「よしこ先生、おはようございます」 「えっ、さっき挨拶したやん」 「で、例の件、どうなりましたか?」 「うっ…。考えたけど、さっぱりわからん。わたし、しんちゃんに何か約束したんかねえ?」 「えーっ、まだ思い出してないんですか?」 「‥‥、すいません…」 「困ったですねえ」 「ねえ、教えて」 「ほら、この間話していたときに、よしこ先生が『今度おごってやるけ、みんなで飲みに行こう』と言ったじゃないですか」 「えーーっ!?わたし、そんな約束したかねえ…」 「忘れたんですか?」 「い、いや、飲みに行くのは約束したかもしれんけど、おごってやるとか言ったかねえ?」 「えーーっ!?言ったやないですか。あの時、Kさんもいっしょにいましたよ」 「あ、そうやったかねえ」 「困りましたねえ。ちょっとKさん連れてきますから」 「…はい」 もちろん、よしこ先生はそんな約束はしていない。 しかし、ぼくがしつこく何回も言っているうちに、自信がなくなってきたのだ。
さっそくぼくはKさんのところに行き、今回の件の一部始終を話し、Kさんに口裏を合わすように頼んだ。 するとKさんは、「それは面白いねえ。さっそく先生のところに行ってこよう」と、薬局に行った。
Kさんはよしこ先生を見つけると、「先生、いつ行くんやったかねえ?」と言った。 「えっ!?」 「わたし、飲みに行こうとか言いましたかねえ?」 「言うたやないね。もう“5人タカシ”は行くようになっとるよ」 「‥‥」 ぼくは遠巻きに、そのやりとりを見ていたが、よしこ先生は口をポカンと開け、目は点になっていた。
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