1ヶ月ほど前から、パソコンの様子がおかしかった。 パソコンを起動させてから10分間ほど、人の声のような音が聞こえるのだ。 どんな声かというと、「ウェッ、ウェッ」という声で、おっさんが首を絞められて喘いでいるように聞こえる。 最初にその声を聞いたのが夜中だったため気味が悪く、霊がパソコンに進入してきたのではないかと思ったほどで、最初の一週間は機械のことよりも、そちらのほうを心配していた。
とはいえ、心配ばかりしていたわけではない。 あることに期待もしていたのだ。 それは、ポルターガイスト現象である。 ぼくは金縛りにあったり、幽霊を見たりしたことはあるのだが、残念ながらポルターガイストだけは見たことがない。 確かにそういう現象が起こるのは怖いことではある。 が、怖いものは見てみたい。 ということで、ぼくは内心何か起きてくれないかと期待していた。 だが、そういったことは何も起こらなかった。
さて、1週間ほど経って、ようやく霊の疑いが晴れた。 霊なら、昼間には出てこないはずだからと、休みの日の昼間、安心してパソコンを使っていると、かすかに先のうめき声が聞こえた。 「えっ!?」と思って、耳を澄まして聞いていると、だんだんその音は大きくなっていった。 それだけではない。 今度は、その音に混じって「ガーーー」という機械音までし始めたのだ。 ここでようやく、ぼくは「これは霊のせいではない」と思うに至ったのだった。
では、霊でないとすれば、あの音はいったい何なのだろう。 ハードディスクの音でもないし、モデムの音でもない。 ということは、機械自体に異常が出ているのではないか。 しかし、異常な音がする以外は、パソコンは正常に作動している。 ということで、そのまま気にせずに使っていたら、異常な音はいつの間にか消えていた。
おっさんの声が初めて聞こえてから2週間目のことだった。 起動した時に見慣れない画面が出るようになった。 英語で書いているので、読む気もせず、そのまま飛ばして起動させた。 相変わらずパソコンは正常に動いている。 「やっぱり問題なかった」と思って、メールソフトを起ち上げた瞬間、電源が切れてしまった。 すぐさま電源を入れ直してみた。 ところが、パソコンはウンもスンも言わない。 調べてみると、電源部が異常に熱くなっている。 「もしかしたら、埃が貯まってるせいかもしれない」と思い、コンセントを抜き、パソコンをばらして、中をクリーナーで掃除してみた。 そして、しばらく時間を置いてから電源を入れてみた。 今度はうまくいった。
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