| 2005年09月09日(金) |
スーパー・ウーマン(前) |
先月末、家から歩いて3分ばかりの場所に、スーパーマーケットがオープンした。 その場所は元々スーパーだったのだが、そこが廃業したため、他のスーパーが店舗を買取って、新装オープンさせたのだ。
前のスーパーには、ぼくは一度しか行ったことがないので、詳しくは知らないのだが、コンビニ二つ分ぐらいの広さしかなく、品数もあまり揃ってないような感じだった。 ところが、母や嫁ブーはえらく重宝がっていた。 二人に言わせると、『痒いところに手が届く店』なのだそうだ。 狭いながらも最低必要なものは揃っていて、しかも近いからいいという。
その重宝な店が、今年7月に、前触れもなく突然締めてしまった。 母は「けっこうお客さんが入とったみたいやけど、何で潰れたんかねえ。これからどうしようか」と言うし、嫁ブーは「調味料とかが切れた時とか便利やったのに。困ったことになった」と言うし、二人ともまるでそこにしかスーパーがないような落胆ぶりだった。 近くには他にもたくさんスーパーがあるのだが、そのことは二人の頭の中にはなかったようだ。
そのせいもあって、8月に新しく、そこにスーパーができると聞いたときの、二人の喜びようといったらなかった。 「あれを買って、これを買って…」と、好き勝手な夢をふくらませていたのだった。
そしてオープンの日を迎えた。 嫁ブーはその日仕事で行けなかった。 朝食時、チラシを見てはため息をついていた。 よほど行きたかったのだろう。
いっぽう母のほうは、開店時間を待ちきれずに、朝早くからそこに行って並んだらしい。 しかしそれだけではなかった。 午前中にもう一度、昼に一度、さらに夕方に一度、何と一日に四度も行ったというのだ。 その夜、実家に行くと、母はそのことを自慢げに話していた。
ところが、嫁ブーが「安かったですか?」と言った途端、母は急に暗い顔をした。 そして、声を落として「それがねえ、全然安くないんよ。確かにチラシに載ってたのは安かったけど、他の物が高いんよね。店の雰囲気も前のほうがよかったよ」と言うのだ。 「えっ!?」 ぼくと嫁ブーは思わず顔を見合わせた。 安くない上に店の雰囲気にも満足してないと言っているくせに、このばあさん、いったい何をしに四度も同じスーパーに行ったのだろう。 もしかして、一品一品の値段を調べていたのではないのだろうか。
帰る間際、母はぼくたちに、「あんたたち明日休みやろ。行ってきたらいい」と言った。 嫁ブーは「はい、行ってみます」と答えた。
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