| 2005年02月23日(水) |
当分の間、人と話したくない |
昨日は歯医者の日だった。 治療が終わり、家に帰ってから、いつものように鏡を見た。 そして、口を「ニッ」としたとたんに固まってしまった。 鏡の向こうのぼくは、まるで別人だった。 いや、別に顔が変わったわけではない。 口を閉じていれば、同じ人である。 だが、口を開けた時のぼくが、ぼくでないのだ。
普通、前歯は『UU』になっている。 ところが、鏡の向こうの人の前歯は『UV』になっていた。 あ然としてしまった。 昨日は治療にけっこう時間をかけて歯を削っていたが、こういう歯を作っていたのだ。 しかし、前歯の形一つで、こうも人相が変わって見えるものなのか 生まれて初めて見る間抜け顔である。
「こうなったら腹を決めよう!」 と思ったものの、やはり人と話す時に気にしてしまう。 まあ、話す時は気をつけておけばいい。 が、話に熱が入ってくると、前歯が見えてしまうようだ。 今日、キンちゃんというパートさんと話していると、突然「ねえ、しんちゃん、『ニッ』てしてみて」と言われたのだ。 気をつけていたつもりなのに、やはりばれてしまう。 それと笑う時。 これはもう、どうしようもない。 前歯を出さないと笑えないからである。 だから、今日はなるべく人と会話をするまいと、一人売場の隅のほうで、機械をいじっていた。
さて、「人と話せない」「笑えない」となると、面白くないだろうと思われるかもしれないが、そうでもない。 こうなったらこうなったで、楽しみもある。 実は、一度でいいから、こういう歯を体験したかったのだ。 決して負け惜しみで言っているのではない。 前に、本で「歯に隙間が出来ると、音痴になる」と書いていたのを読んだことがある。 歯に隙間が出来ると、その隙間から息が漏れて、音程が外れるらしい。 それを読んだ時、ぼくは「本当か?」と疑ってしまった。 どうかやって、それを確かめたかったのだが、それを読んだのは健康な前歯の時だったので確かめるわけもいかない。 何かいい方法はないものかと考えていた。 が、歯を抜く以外に方法はない。 そのため半分諦めていたわけだが、今回、『UV』歯になることで、ようやくそのチャンスに恵まれたわけだ。 さっそく、帰りの車の中で、大声で歌ってみた。 ところが、息が漏れることもないし、音程を外すこともない。 声もいつもの声である。 あの本は、誰を基準にして言っていたのだろうか。 もしかしたら、元々音痴の人が、「歯が抜けたけねえ」などと言い訳をしていたのかもしれない。
まあ、こういう遊びが出来るとはいえ、歯がないとやはり不便である。 第一、物が噛めない。 『V』歯の先っぽの部分が欠けそうで、どうしても噛むことを躊躇してしまうのだ。 それでも、柔らかいものなら何とかなるのだが、堅いものになるとそうもいかない。 今日の晩飯、無神経な嫁ブーは、ぼくの歯のことなどお構いなしに、堅いものを出してくれた。 ぼくが「おまえ、意地が悪いのう」と言うと、「えっ、何が?」と聞く。 そこで、ぼくは「ニッ」としてやった。 嫁ブーは涙を流して笑いながら、「ああそうやった。ごめんごめん」と言った。 が、緊張感が欠如しているから、明日もまた、堅い物を作るだろう。 そうなると、またぼくは「ニッ」としなければならない。
現在、母も同じ歯医者に通っているのだが、母の場合、前歯が入るまでに1週間かかったという。 ということは、あと5日も『UV』で生きていかなければならないのか…。
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