先月、近郊の遠賀町で、青酸カリの入った金庫が盗まれるという事件があった。 犯人は、ぼくと同じ八幡西区に住む人間で、捕まった時「金目当てに金庫を盗んだが、青酸カリが入っていて驚いた」と供述。 犯人は知人に相談し、その青酸カリを盗んだバイクの座席下に隠しておいたという。
ところが、そのバイクが盗まれた。 よくよく運のないバイクである。 バイクを盗んだのは、金庫犯と同じ区−もちろんぼくとも同じ区−に住む少年二人だった。 座席の鍵を開けてみると、そこには青酸カリが入っていた。 そこで「怖くなって、重りとして小石を(青酸カリの)容器内に詰め、ふたを閉めて洞海湾に投げ捨てた」らしい。
今日、ワイドショーやニュース番組では、このニュースを繰り返し放送していた。 ニュースでは、洞海湾やその周辺のゴミ置き場に容器がないかと、係員が探している映像が流れていた。 現場はぼくの家から4,5キロ離れた場所だった。
洞海湾。 古くは日本書紀にその名前が出てくる。 神功皇后は九州入りの際、ここに入港したのだ。 中近世は、交通の要所となった。 馬関と黒崎の間に定期船が出ていたので、長崎に行く人は門司に行かず、洞海湾に入ってきた。 そのため、黒崎は長崎街道の筑前の起点となっている。 かの坂本龍馬は、太宰府の三条実美に謁見する際、小倉からではなく、黒崎から陸路をとっている。 近代は北九州工業地帯の中心地となる。 八幡製鉄や三菱化成といった重化学工業の、主要工場がここに集結した。 また、火野葦平の『花と龍』の舞台になったことでも知られている。 現在は、市内有数のデートスポットになっている。 喜ばしいことではないが、暴走族の溜まり場にもなっている。
ぼくはこの海(湾)の目と鼻の先に住んでいるため、物心ついた頃からずっとこの洞海湾を見て育ってきた。 つまり、ぼくのふるさとである。 企業の廃液の垂れ流しのため、久しく『死の海』と呼ばれていた洞海湾だったが、最近ようやく魚や水鳥が戻ってきた。 その矢先にこの事件である。
専門家は「膨大な海水量でその濃度が薄くなるため、被害はほとんどないだろう」とのたまっていた。 何が「被害はない」だ。 この海で、車エビ漁をやって生活している人がいる。 この人は被害者じゃないのか? この事件のせいで、イメージダウンは必至である。 当然、車エビは売れなくなるだろう。 釣り糸を垂れている人だっているのだ。 この人は被害者じゃないのか? もしかしたら、その魚を食って生活しているのかもしれないじゃないか。 まあ専門家を責めてもしかたがないことではあるが。
とにかく、悪いのは少年バカ二人である。 いったい何を考えているんだ。 洞海湾は、校歌にも出てきただろうが。 お前たちのふるさとでもあるだろうが。 そんな神聖な場所に、毒物を捨てるとは何ごとだ。 ふるさとの海を汚す奴は、このしろげしんたさんが許さん!
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