ぼくは店長の前以外では、店長のことを「店長」と呼んでいない。 何と呼んでいるかというと、「タカシ」である。 「タカシ」は店長の名前である。 なぜ店長と呼ばないのかというと、「店長」と呼べるほど尊敬出来ない人だからである。 「タカシ」で充分なのである。
2,3日前の話。 あるパートさんに「お姑さん危篤」の連絡が入った。 ちょうどその時、店長タカシから仕事を言いつけられていたパートさんは、その旨を彼に伝え、帰ろうとした。 ところが、店長タカシは「帰るのは、この仕事を終わらせてからにして」と言ったという。 しかし、事情が事情なので、パートさんはその仕事を他の人に頼んで帰ったという。 結局その日にお姑さんは亡くなり、翌日が通夜となった。 パートさんは、その時弔問に来た人に、そのことをこぼしたという。 こういう非人情な人だから、ぼくは尊敬出来なのだ。
さて、そんな店長タカシの一番のお気に入りが、実はあのH子なのである。
最近、H子とはどんな人かと聞かれることがある。 あのオナカ君は、わざわざ見にも来た。 H子、そうだなあ、ぼくは直接いっしょに仕事をしているわけではないのでよく知らないのだが…。 強いて特長を上げるとしたら、 上背は一般女子よりも高く、 頭のでかさは一般女子の2倍、 それを乗せる顔は一般女子の3倍、 肉付きは一般女子の4倍、 足の臭さは一般女子の5倍、 性格の悪さは一般女子の10倍、 服のサイズ21号、 まあ、こんなタイプの女の子である。 なぜかネズミ色が好きで、毎日ネズミ色のTシャツを着ている。 特に薄いネズミ色を着ている時は、一般女子の4倍ある贅肉がくっきりと浮かび上がる。 そういうH子の姿を後ろから見ると、まるで象、いやマンモスである。
さて、そのマンモスH子。 薬局勤務も5日目に入り、「だいぶ売場に慣れてきた」と人に語っていたらしい。 が、あいかわらずH先生は、マンモスの存在が面白くないらしく、いつも「いかにして追い出そうか」と頭を巡らしている。
昨日全員に給与明細が配られた。 薬局のパートさんが、その明細を見て「あーあ、あいかわらず少ないねえ」と嘆いていた。 それを聞いたマンモスH子が、そのパートさんに「そんなに少ないんですか?」と訊いた。 「4時間勤務やけ、いくら頑張っても○万円がいいとこよ」 「ええっ?そんなに少ないんですか。私あと1万円多くないとやっていけない」 そういうやりとりを小耳に挟んだH先生。 「ああ、それは困ったねえ。何なら、他の売場に移ったらどう?彼女の言うとおり、ここでいくら頑張っても、○万円がいいとこやけねえ。他の部門なら、1万ぐらい軽くオーバーするよ」 「そうですねえ」 「いや、遠慮せんでいいんよ。店長に言うて替わらせてもらったらいい」 「はい!」
その後、マンモスH子が店長タカシのもとに談判に行ったかどうかは定かではない。 が、先生の執拗な口撃で心が動いことは確かだろう。 あっ、 しかしマンモスは普通の人間ではないから、案外「先生って、人のことを親身になって考えてくれるいい人なんだなあ。別に怖い人でも悪い人でもないやん。もう少しここで頑張ってみよう」と思ったかもしれない。 どうするH先生。
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