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2004年05月14日(金) 「社長が死んだ」

話は2週間前にさかのぼる。
5月1日のこと。
取引先のK商店から商品が入荷した。
K商店は一族でやっている企業で、配達もその一族でやっている。
その日商品を持ってきたのは、社長の奥さんだった。
「こんにちはー。お世話になっています」
「あ、こんにちは。Kさん、今日も仕事なんですか?」
「ええ、うちは暦どおりだから」
「他の取引先はどこも休みなのに大変ですね」
「そうなんですよ。それに、今朝方おじいちゃんが亡くなったんですよ。もう忙しくて」
「おじいちゃん?」
「ええ、社長のお父さん、会長ですよ。99歳だったんです」
「へえ、大往生やねえ」
「で、ここが終わったら、すぐに通夜の準備なんです」
「じゃあ、明日が葬儀?」
「いえ、葬儀は連休明けにやります」
奥さんは5分ほどぼくの話につきあった後、走るようにして帰って行った。

さて、連休明け。
わりと人通りの多い表通りにある斎場で、しめやかに葬儀は執り行われた。
斎場には、会長の名前『○○○○』が大書してあった。
ところが、それが元で大きな勘違いが起きた。
喪主は息子である社長がやったのだが、社長の名前は『○○○○郎』といって、会長の名前に『郎』一文字を付け加えた名前である。
今の取引先の人で、会長の名前を知っている人はいない。
そのため、会長の名前を見た人は、てっきり社長が亡くなったと思ったのだ。

翌日、ぼくは店長から呼ばれた。
事務所に行くと、店長は「ねえ、しんた君、K商店と取り引きあったよねえ」と言った。
「ええ、ありますよ」
「社長、どこか体の具合が悪かったんかねえ」
「え?知りませんよ」
「そうか、知らんのか。いや、実はねえ、他の店の人からから電話があって、『昨日、K商店の社長の葬儀をやっていた』と聞いたんでね、しんた君が知っとるかと思ってね」
「葬儀?ああ、それは会長の葬儀ですよ。一日に社長の奥さんが来た時に、会長が亡くなったと言ってましたから」
「ああ、会長ね。そうやろうね。社長の具合が悪いとか聞いてなかったけ、おかしいなとは思ったんやけど…。ああ、そうか、社長は会長の名前に『郎』を足した名前やけ、知らん人は間違えるよねえ」
それで納得したのか、話はそこで終わった。

ぼくが売場に帰ると外線が入っていた。
電話は本社の人からだった。
「しんちゃん聞いた?K商店の社長が亡くなったらしいね」
また勘違いである。
「ああ、あれは会長ですよ」
ぼくはその日「社長が亡くなった」という話を三度聞かされた。

翌日も、何人かの人が言ってきた。
しかし亡くなったのが会長だとわかったのか、それ以来言ってくる人はいなくなった。

ところがである。
それから一週間くらいして、ある取引先の人が、「K商店の社長が亡くなったらしいですね」と言ってきた。
「いや、亡くなったのは会長」
「ああ会長だったんですか。そうですよね、社長まだ若かったし」
もう時間も経っていることだし、そういうことを言ってくる前に、ちゃんと電話で確認をとるなりして、事実を調べろよ。
知らない仲じゃないんだから。

とはいうものの、ぼくも奥さんから聞いてなかったら、ここ最近会ってないし、やはり亡くなったのは社長だと思ったかもしれない。
いつもネタに困っているので、案外この日記にもそのことを書いたかもしれない。
社長はこの日記をたまに読んでいるらしいから、もしそうしていたら、「日記読みましたよ」と言ってきたかもしれない。
きっと、バツの悪い思いをしていたことだろう。


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