頑張る40代!plus

2004年05月07日(金) 親父さんの七回忌(中)

あいかわらず親父さんはボーッとしていた。
が、しばらくしておもむろに口を開いた。
「それは、おめでとうございました」
拍子抜けしてしまった。
こちらは大声出して、赤恥かいたのに、まるで他人事じゃないか。
ちょっとムッとしたが、『これも、嫁に出す父親の気持ちなんだろう』ということで、自分を納得させることにした。

ところで、その「それは、おめでとうございました」というセリフだが、ムッとしながらも、ぼくは妙に気に入っていたのだ。
『間を取って使ったら、この言葉、ギャグになるわい』と思っていた。
その後何度か、その言葉をギャグとして使わせてもらったものだ。

さて、冒頭にも言ったが、今年が七回忌だから、親父さんは6年前に亡くなった。
結婚承諾以来もずっと体調が優れず、入退院を繰り返していたのだが、ちょうど小康状態で家に戻っている時だった。

その日ぼくは仕事だった。
正午過ぎだったか、荷物を運んでいる時に突然携帯にが鳴り出した。
携帯が鳴るなんて日常のことなので、別に驚きはしないのだが、なぜかその電話は気になった。
電話に出ると、受話器の向こうに違う世界があった。
雰囲気が、普通の電話と違うのだ。
少しの沈黙があった後、「しんちゃん、お父さんが…」という声が聞こえた。
嫁さんからだった。
あとは言葉にならなかった。

朝方は普通通りの生活をしたらしいが、午前10時を過ぎてから様態が急変したらしい。
意識不明に陥り、そのままの死去であった。
その病気が癌であることは知っていた。
が、死因は違う病名だった。

その日通夜をし、葬儀は翌日行われた。
葬儀の後、一家は火葬場へ移動したのだが、ぼくは嫁さんと留守番することになった。
およそ1時間後、「そろそろ灰になったやろうね」などという話を、仏間でしている時だった。
突然、台所のほうから「パタパタ」という足音がするのが聞こえた。
そして、その音は冷蔵庫付近で止まった。
「パタン」
続いて冷蔵庫の閉まる音がした。
嫁さんが「誰かおるんかねえ」と言うので、ぼくは台所を覗いてみた。
「誰もおらんぞ」
「あっ…」
「どうしたんか」
「今の足音、お父さんの足音やった」
「えっ?」
まさかここで心霊体験をするとは思わなかった。
確かにその音は二人とも聞いているのだ。
もしかしたら、その時家の中の写真を撮っていたら、親父さんが写っていたかもしれない。
それをやらなかったことが、いまだに悔やまれてならない。


 < 過去  INDEX  未来 >


しろげしんた [MAIL] [HOMEPAGE]

My追加