| 2004年05月06日(木) |
親父さんの七回忌(前) |
ぼくの休みは、火曜日と金曜日である。 たまに、所用が出来たり、パートさんの用があったりした時は、その休みを他の曜日に移すこともある。 が、そういうことは、2ヶ月に一度あるかどうかである。
さて、明日は金曜日だが、休みではない。 土曜日に所用が出来たため、休みを替えたのだ。 所用とは、嫁さんの親父の法事である。 今年が七回忌に当たる。
親父世代とのつきあいが苦手なぼくだが、この親父さんとはわりと気が合った。 親父のほうもまんざらではなかったようで、嫁さんとつきあっていた頃に、家に遊びに行くと、必ず親父が「おお、しんちゃん、いらっしゃい」と歓迎してくれたものだ。 が、嫁さん一家での親父さんの立場は微妙だった。 いつも家族から、馬鹿にされ、蔑ろにされていたのである。 ぼくは小さい頃父親を亡くしているので、そのへんのところが今ひとつわからなかったのだが、この親父さんを見て、子供は母親になびくものだということが、よくわかった。
結婚の承諾をもらいに行ったのは、親父さんが大学病院に入院している時だった。 親父さんがいる部屋は大部屋だった。 たまたま行ったのは、折り悪く夕食の時間だった。 その部屋の患者がすべて揃っていたのだ。 面会時間は30分と決まっている。 衆目の中で、ぼくは結婚の承諾を得ることになった。 何と言おうか迷ったあげく、その日契約したマンションの話を先にして、それから言うことにした。 「…ということで、住む家も決めました。結婚させて下さい」 「・・・」 反応がない。 そこでもう一度、「結婚させて下さい」と言った。 「・・・」 またしても反応がない。 ぼくは嫁さんのほうを振り向いて、小声で「おい、返事がないやないか。聞こえとるんか?」と聴いてみた。 「ああ、耳が遠いけねえ。聞こえてないかもしれんよ」 「そうか…」
これは困ったことになった。 周りに人がいるので、なるべくその人たちの耳に入らないように言ったのだが、きっとそれで聞こえないのだろう。 『こうなったら、しかたない』と思ったぼくは、今度は廊下に聞こえるほどの大きな声を出した。 「結婚させて下さい!お願いします」 部屋の患者が一斉にこちらを向いた。 さすがに今度は聞こえただろう、と思いきや、親父さんはあいかわらずボーッとした顔をしている。 困ったぼくは、「おい」と言いながら、再び嫁さんのほうを見た。 「聞こえてないやないか。これ以上の声は出せんぞ」 嫁さんも困った顔をしていた。 しかたなく、「少し様子を見よう」ということになった。
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