先日、ある人と話をしていたのだが、そこで盛り上がった話題がある。 それは足の臭いの話である。 今でこそそれほどでもなくなったのだが、昔はひどかった。 小学生の頃は、友人と足の臭さを競っていた。 裸足で運動靴を履いていたのだが、靴を脱ぐと決まって指の間に垢がたまっていた。 それを臭ってみると、笑いが出るほど臭い。 で、垢を集めて、友人とその臭いのきつさを競っていたわけだ。
高校生の頃も、ぼくはあまり靴下をはかなかったのだが、汗で上履きの中が腐ってしまい、それはひどい臭いがしていたものだった。 上履きを脱ぐと漂ってくる。 よく友人から「上履きを脱ぐな」とたしなめられていた。 ちなみに、ぼくが靴下を履くようになるのは、高校2年の冬のことで、理由は大風邪を引いたからである。 それ以来、夏場以外は靴下を履くようになった。
ぼくが、前に勤めていた会社に就職したのは23歳の時だった。 就職したての頃、ぼくたちは、2人一組になって配達やクレーム処理に行かされていた。 ある日、主任から「今日はここに行ってきてくれんね」と一枚の紙を渡された。 何気なくその紙を見てみると、そこに見たことのある名前が書かれていた。 『もしかしてこれは…』と住所を調べてみた。 『ああ、やっぱり間違いない』 実はその名前は、高校時代からぼくが好きだった人の、父親の名前だった。 ということは、うまくいけば5年ぶりに彼女と再会出来るかもしれない。 期待に胸を弾ませて、ぼくは車に乗り込んだ。 別に何軒か行くところがあったので、その家に着いたのは9時を過ぎていた。 「こんばんは」 「はーい」 女性の声がした。 が、老けている。 「○○店の者ですが」 「どうぞー」
さて、ここで問題が起きた。 その日、ぼくはナイロンの靴下を履ており、しかもブーツを履いていた。 ブーツを脱ごうとした時だった。 実に野性的な臭いが漂った。 『せっかく彼女に会えるチャンスなのに、この臭いでは…』 とぼくは考えを巡らした。 『そうだ! この臭いはもう一人の奴の臭いと思うことにしておこう』 そう思ったぼくは、野生の臭いをふりまきながら、家の中を歩いていった。
居間に案内されて、しばらく談笑した時だった。 カタッという音がした。 彼女の登場である。 その時だった。 玄関のほうから、プ〜ンと野生の臭いが漂ってきたのだった。 それに呼応するように、ぼくの足元からも臭いが漂ってきた。 最悪である。 ぼくは足の臭いに気をとられて、ろくな話も出来なかった。
おそらく人生最大の失態だったと思う。 それ以来、ぼくはナイロンの靴下とブーツを履かないようになった。
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