| 2003年05月25日(日) |
あまり嬉しくない後輩たち 前編 |
今日、売場に立っていると、後ろから「おう!」という声がした。 振り向いてみると、そこには高校の同級生のAちゃんがいた。 「しんた」 「おお、Aちゃんか」 「久しぶりやねえ」 「ほんと、久しぶりやねえ。Aちゃん、いくつになったと?」 「いくつって…」 Aちゃんは、相変わらず変なことを言う奴だという顔をしていた。
ぼくはこれまで二度就職をしたが、そのどちらも職場は市内にある。 そのせいか、知り合いによく遭遇する。 前の会社で楽器を売っていた頃、一人のお客さんがやってきた。 坊主頭のスーツ姿、目つきが鋭く、その容姿に不釣り合いな派手な飾り物を身につけている。 どう見ても、堅気には見えない。 関わると面倒なので、ぼくは顔を合わさないようにし、売場の隅で「早く帰ってくれ」と願っていた。 こちらの意に反して、けっこう長い時間、その人はそこに展示してある楽器類を見ていた。 ゆっくり売場を一回りし、キーボードの前で足が止まった。 物言わずじっとそれに見入っている。 しばらくして、彼はぼくのほうを振り返り、「すいませーん」と言った。 ぼくは「捕まった…」と思いながら、その人のところに行った。
「あのー、これ、子供でも弾けますかー?」 言葉は普通だが、その筋の人たちの使う、独特のアクセントだった。 「おいくつですか?」 「4歳」 「ちょっと難しいと思いますが…」 「そーですか。じゃー、こっちはー?」 「あちらと比べると簡単です」 「そーですか。じゃー、これもらえますかー」 あっさりと決まった。 彼はポケットから財布を取り出した。 財布は分厚く、おそらく100万円くらいは入っていただろう。 そこからお金を取り出すかと思いきや、彼は「あいにく、持ち合わせがありません。ローン組めますか?」と言う。 「ローンですか。いいですよ」 ぼくはさっそくローン用紙を取り出し、彼に必要事項を書いてもらった。
「書きましたよー」 商品の準備をしていたぼくに、彼は声をかけた。 「はい」 と、ぼくはローン用紙に目を通した。 「!」 そこには、中学時代の後輩の名前が書かれていた。 しかし、関わるのがいやだったので、そのことには触れなかった。
しばらくして、ローンの承認が下りた。 「お待たせしました」 ぼくは、彼に商品を渡した。 その時だった。 彼はぼくの顔をのぞき込んだ。 「あのー、どこかで会ったことありませんかねー? 失礼ですが、中学どこでしたかー?」 「H中ですけど」 「お名前、なんと言うんですかー?」 「しんたですけど」 「ああ、しんたさん。あのー、わたしのこと覚えてませんかー?」 ぼくはわざとその人の顔をのぞき込み、「そういえばどこかで見たような」と、その時初めて気がついたような顔をした。 「やっぱり。いやー、最初からどこかで会ったような気がしてたんですよー。お久しぶりでーす」 急に彼は饒舌になった。
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