うちのバイトに伊藤君という大学生がいる。 昼食時に彼と話していたのだが、途中で彼の携帯電話が鳴った。 「おい、電話が鳴りよるぞ」 「ああ、これメールです」 「お前、聞くところによると、メール魔らしいのう。一日何件ぐらいメールしよるんか」 「多い時で50件ぐらいですかね」 「50件?!」 「多いですかねえ」 「多いわい」 「でも、メールしなければ友だちが減るようで寂しいじゃないですか」 「お前、メールでしか友だち付き合い出来んとか。まあそれはそれとして、そんなにメールしよったら、他に何も出来んやろ?」 「他にすることないですから」 「帰ってから本を読んだりせんとか?」 「本はマンガしか読まないです。マンガは白けるじゃないですか」 「じゃあ、テレビは?」 「嫌いです」 「ところで、携帯に月なんぼ払いよるんか」 「少ない時で2万円、多い時で7万円です」 「7万!?」 「でも、親が払ってくれますからね」 「お前、携帯代を親に払わせよるんか?」 彼はいかにも当然という顔をして、「はい」と言った。
ぼくもけっこう携帯を使うほうだが、それでも多い時で2万円程度だった。 最近は携帯で電話することも少なくなったし、頻繁に使うiモードも、FOMAに変えたため通信料がかなり安くなり、ドコモに支払う額は毎月だいたい7千円程度である。 「ぼくの学生時代に携帯電話があったとしたら、そこまで携帯電話を使うだろうか」と考えてみた。 そして、「使うより以前に、携帯を持たないだろう」という結論が出た。 学生時代のぼくはへそ曲がりだったから、「みんなが携帯を持っているから、持つのは嫌だ」と言って、持たなかったにちがいない。
さて、伊藤君である。 「お前、携帯のことを、ホームページに書いていいか」と、ぼくは伊藤君に聞いてみた。 「書いてどうするんですか?」 「いろんな人の意見を聞いてみたいけの」 「別にかまいませんよ」 「じゃあ載せる。で、実名で書いていいか?」 「どうしてですか?」 「イニシャルで書くとI君になるけど、I君じゃけっこうパソコンで見にくいけのう」 「いいですよ。どうせ、知らない人が読むんでしょ?」 「いや、この店の人も読むよ」 「それは困ったなあ」 「おれは困らんけ、書くぞ」 「好きにして下さい」 ということで、彼の承諾をもらって、実名で書くことが決まった。
ところで、『いろんな人の意見…』は口実である。 「世の中にはこういうバカな学生がいる」ということを教えたかったのだ。 いったい彼は、将来どんな人間になるのだろう? それに、親は彼が就職してからも、携帯代を払ってやるのだろうか? 以前、マンガ『人間交差点』で、親から勉強したご褒美として2000万円のカードをもらい、殺人事件を引き起こした学生の話を読んだことがある。 彼もそうなるのではないか、と余計ながら心配している。
|