最近近所のおじさんが入院したのだが、薬のせいで変な行動を起こすようになったと言っていた。 病院にいるのに、夜になると決まって家にいるような錯覚に陥るらしい。 そのため、自分のものも他人のものも自分のものと思うようになってしまい、勝手に他人のカバンを開けたりすると言うのだ。 その持ち主がそこにいないなければ、手癖が悪いということになるだろう。 しかしこのおじさんの場合、その持ち主の前でやってしまうという。 しかも、翌朝になったら、そのことはすっかり忘れているという。 病院側も、同室の人とトラブルを起こされたら困るので、このおじさんを個室に移した。 おじさんは、今罪悪感にさいなまれているという。
以前似たようなことが、うちの親戚内であった。 当時、その親戚は腰痛で通院していた。 病院から薬をもらってきて服用していたのだが、その中にどういうわけか精神安定剤があった。 それが事件を引き起こした。 ある日、夜中に警察から電話がかかってきた。 何でも、警察署にその親戚から自殺予告の電話があったというのだ。 駆けつけてみると、親戚の人は包丁を首にあて、「死んでやる」などと言って吠えていた。 警察も説得を試みたらしいのだが、言うことが支離滅裂で、話にならなかったということだ。 とりあえずぼくは包丁を取り上げ、「明日話を聞いてやるから、今日は大人しく寝とけ」といい、寝付くまでそこにいた。 部屋の中を見てみると、テーブルの上に病院からもらった数個の薬の殻が置いてあった。 その中には、例の精神安定剤も入っていた。 どうも、それを飲んでからおかしくなったらしい。 翌朝、親戚宅に電話をしてみると、「え、そんなことがあったん?」と言う。 全く覚えてないのだ。 至って冷静で、言うこともはっきりしていた。 数日後、病院に出向き、医者に「もうあの薬を入れないでくれ」と頼んだ。 それがよかったのか、それからはそういうことは起こらなくなった。
ところで、先のおじさんが騒ぎを起こしたのは、うちの親戚が通っていた病院と同じ病院なのである。 おそらく、同じ薬を投与されていたのではないだろうか。 聞くところによると、そのおじさんは突然倒れて、その病院に運ばれたという。 ところが、いろいろ検査したにもかかわらず、その病気が何であるのか、その病院ではわからなかったらしい。 しかし、倒れた時の状況などを聞いてみると、どうも自律神経失調症のようである。 ぼくの知り合いに、何人か自律神経失調症で悩んでいる人がいるが、そういう人たちと症状が似ているのだ。 しかも、そういう人たちも、このおじさんと同じように、最初に運ばれた病院では病名がわからなかったという。 結局、ある人は『てんかん』と言われ、ある人は『貧血』だと言われたらしい。 しかし、他の病院で検査をしたら、そういう病気は見あたらなかったそうだ。
それにしても、病名もわからないのに、薬を与えるとは何事だろう。 ぼくが医者や薬を嫌う理由は、こういうところにもある。
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