予備校で、ぼくがトイレから出てくると、前を同じクラスの女の子が歩いていた。 同じくトイレから出てきたようだ。 教室に戻るには階段を上らなくてはならない。 ところが、ふと彼女を見ると、スカートがめくれている。 それもミニスカートである。 同じ階段を上るわけだから、後ろを歩いているぼくは当然見えてしまう。 彼女が階段を上りだした時、ぼくは目のやり場に困った。 「どうしよう」 しかし、教えてやるほどの勇気はない。 かえって変態扱いされるのがおちだ。 中学時代の思い出がよみがえる。 見たら見たで、後でわかった時に何を言われるかわからない。 しかたなく、ぼくは下を向いて階段を上った。 後でぼくを見ていた男子から、「お前、いい思いしたのう」と言われた。 見てないっちゃ!
社会に出て、電車通勤をしていた頃の話。 電車はいつも満員だった。 痴漢と間違えられると嫌なので、ぼくはいつも両手で吊り革をつかんでいた。 ある日、えらく後ろから押されたことがあった。 両手は吊り革をつかんでいるため、押されるたびに吊り革にぶら下がって、爪先立ちの状態になる。 そのたびに、前に立っている女の人のお尻に、ぼくの下半身が当たるのだ。 最初は押されるほうばかりに気をとられて、前を押していることは気がつかなかった。 気がつくと、その女の人はぼくを睨んでいる。 どうして、前の女の人がぼくを睨むのかがわからなかったが、しばらくして、「あ、そうか!」と、やっと合点がいった。 単純にぼくと彼女の間の行為だけで捉えると、これははっきり言って痴漢行為である。 しかし、こちらとしてはそういうつもりは毛頭ない。 こちらも動きようがないのだ。 ぼくは心の中で、「そういう怖い顔で睨みなさんな。この状況で、どうしろというんだ。おれだって早くあんたのそばから離れたいわい!」と思っていた。 ある駅で人が減ったので、ぼくはすぐにその人のそばから離れた。
またまた中学時代に話は戻る。 ある日の昼休みのこと。 ぼくは急にトイレに行きたくなった。 教室を出て、廊下を小走りしてトイレに向かった。 その時、曲がり角で、同じクラスの女の子とぶつかりそうになった。 ぼくはとっさに手を出した。 その手が、なんと彼女の胸に触れたのだ。 『あらっ!』と思ったが、もはや漏れる寸前である。 ぼくは「ごめん」と言って、トイレに急いだ。 教室に帰ると、その女の子は何かニコニコした顔をしていた。 その後、ぼくはその子から、婉曲なラブレターをもらった。 だから、違うっちゃ。 勘違いやろ、カ・ン・チ・ガ・イ。
大体こんなところか。 若い頃は、よく勘違いされて迷惑したものである。 最近は勘違いされての迷惑話は少なくなったが、昨日の冒頭のような変な迷惑話が多くなった。 そういえば、今の会社に入った時、「あの人の目を見たらいけんよ」と教えられたことがある。 「あの人」とは、24,5歳の女性であった。 話を聞くと、その女性の目を見ると、「あの人、私のことが好きみたい」と人に触れまくるのだそうである。 こういう自意識過剰な人は、本当に困りものである。 この話を聞いていたので、ぼくはそういうことを言われずにすんだ。 入社して程ない頃、会社帰りに小倉に飲みに行ったことがある。 駅に向かう途中に、その子とばったり会ってしまった。 「今帰りですか」 「ああ」 「どこまで行くですか」 この子、若いくせに言葉がいやに年寄り臭い。 目を見ただけで恋愛なら、まともに話していたら大恋愛になってしまう。 ぼくは始終、そっけない返事を繰り返すばかりだった。 こういう人の存在も、迷惑と呼んでいいだろう。
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