スナックおのれ
毛。



 言葉の風。


東京の商売人のおばちゃんの言葉が好きだ。

40〜50歳くらいのおばちゃんだと気さくな言葉をかけてくれます。
「あら、元気にしてた?いつもありがとうねぇ」
子供の頃から慣れ親しんできた店先の挨拶。それも大好きだけれど、今、ここで持ち上げているのは違う言葉です。60歳を越えたくらいのおばちゃんが使う独特の敬語です。例えば、私が、「暑いですねぇ、最近」と声をかける。すると「そうでございますねぇ。おあつうございますねぇ」と声をくれる。文面にすると、ちょっと嫌味なものにも聞こえますが、決してそれは嫌味なものではありません。お豆腐屋のじめじめした店先から、ひゅっと上品が形になって現れたかのような、そんな言葉です。単純にきれいだなあ、と思います。店の人と客と、その境界線を越えない謙虚さがあって、気品すら感じます。
25歳の私が言うのもなんですが、最近、言葉の変化についていけません。次々と新しい言葉、新しい言い方がでてきて、最近、お手上げ状態の自分がいることに気付きます。今の高校生が話す「だしーぃ」とか「ほにゃほにゃでぇー」のような言葉。一概に汚い言葉だとは言いません。日本語の退化だとも言いません。あれだって、時代の流れだと思ってます。だけれど、私が60歳くらいになった時、店先から聞こえる声があんなんだったらちょっと残念です。「暑いですね」と声をかけたら、「っていうか、まじあついよねぇ」といい歳こいた婆さんに言われたら、暑さは倍増です。やっぱりここは「おあつうございますね」と涼しげな顔で一陣の風を起こして頂きたい。その頃まで、東京にいるとは限りませんが、どこの土地に言ってもそんな客と店の人のやりとりがあってもいいじゃないか、と我が侭な客である私は思ってしまいます。

2002年09月10日(火)
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