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窓のそと(Diary by 久野那美)
by 久野那美
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■女優:大西智子嬢について
「大西さん、早く取りに来て・・」
と土曜日の日記に書いたら、それを読んでか読まずか、当の大西智子嬢からメールが来た。
「桜ららら〜」(季語なのか?)ではじまるメールで、パソコンの下見(?)に来るための日程の相談だった。「かついで帰れませんかねえ?宅配のほうがいいかしら?」
という質問になんと答えていいかわからず返事を書きそびれる。
大西智子嬢は、山羊の階のメンバーで、「エプロンの女」を演じた女優さん。
とてもチャーミングな女優さん。人間なのに手塚アニメのヒロインみたいな顔をしている。(リボンの騎士とかユニコとか)不思議なひと。
人間と一緒にいるのがしんどいときでも、このひとにはストレスを感じない。アニメだからか?
観葉植物とか熱帯魚とかに近いのかもしれない。かといって物静かなわけでもない。
観葉植物はものをこぼしたり壊したりしないけど彼女は壊すしこぼす。
稽古場でも普段でも、いつも身体のどこかが絶え間なく動いている。
動いてるからといって何かに働きかけてるわけでもない。本人もあまり意識している様子がない。スクリーンセーバーみたいなものなのだと思う。
あるいは眠っている。とくに雨の日はふと見るといつも隅の方で寝ている。

一見突然話が変わるけど(実は変わらない)「野口英世のお母さんの手紙」というのがある。学はないけれど息子への愛にあふれる母親が見よう見真似で書いた息子への手紙。「よい文章とは知識や技巧ではない」ということの例に使われる有名な手紙だ。たどたどしい東北弁で、文と文との間には大きな○がついている。「文のおわりには丸をつけるものだと誰かに言われたのであろう」とかいう解説が添えられていたりする。「句読点の意味さえもおぼつかない老いた無学な女性がこんなあたたかい文章を書く」ということを、その巨大な丸に象徴させているのだろう。

はじめてその文を見たとき。私は大西さんのメールのことを思った。
彼女のメールはすべての文が○でつながっている。もっとおおきな連結部分(なのだと思う)には◎さえある。彼女は老いてもいないし無学でもない。東北弁でもない。あの○(◎)は何を象徴しているのか?でも、彼女のメールが私はちょっと好きだったりする。
大西さんからはときどき突然はがきもくる。そういえば、電話で話したことはほとんどない。稽古場以外で会ったこともほとんどない。

出会いは結構ドラマチックだった。
4年前。あるプロデュース公演で、コロス(具体的な登場人物の役ではなく、物語そのものを支える役目の群衆。)をやっていた彼女を偶然みつけて一目惚れしてしまった。おなじ役柄の役者さんは他にも何人もいたけれど、私には彼女しか目に入らなかった。まるで人間でないみたいに、立って、動く人だと思った。セルロイドでできた人形のようだと思った。「あのひとは誰?誰?」とあちこちで聞き回ったけど、他の舞台に出ているのを見たこともなく、手がかりがつかめなかった。
それが・・。1年以上たって。そのプロデュース公演に出ていた友人(ジャブジャブサーキットの一色忍嬢)の別の舞台を見に行ったとき、楽屋の前でばったり出会ってしまった。ほんとに偶然だった。
「ああああああああああっ」と頭の中で思って、思わず声を・・・かけようとしたら向こうから声をかけられた。「・・・那美さんですよね。」初対面のひとにファーストネームで呼びかけられてびっくりした。
大西さんは私のほんを読んだことがあると言った。
びっくりしたけど、びっくりしてる場合ではないので、その場でアドレス帳を出して
「大ファンなんです。お話したいんですけど・・電話番号聞いてもいいですか?電話していいですか?」と尋ねた。
私もびっくりしたけど彼女もびっくりしていた。お互い様か。
お互いが相手のペースに巻き込まれている内に、そのまま終電の時間になり、ほとんど話しもしないまま別れた。

そのあと・・・。どうなってどうなったのか・・・

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03月27日(水)
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