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脚本家・今井雅子の日記
by いまいまさこ
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■ ぶり大根のおねえちゃんのマンマ・ミーア
偶然、同じ日に二つの結婚が重なった。ひとつは、広告会社で勤めていた頃に親しくしていたK嬢の入籍報告ランチ。もうひとつは、わたしの作品の読者から友人になったミキさん出演の『マンマ・ミーア』を題材にした英語劇の発表会。
先にK嬢から案内をもらい、このところ週末も仕事でなかなか相手をしてあげられないたまを連れて行こうと「母子で参加します」と返事したのはひと月ほど前のこと。カレンダーに印をつけ、「この日はママと結婚式よ」と言い聞かせていたので、たまは指折り数えて「もうすぐだね」と待っていた。以前結婚式でドレスを着て御馳走が並んだ記憶があったので、同じようなものを想像していたのかもしれない。こじんまりした内輪のランチは同窓会となり、懐かしさのあまりしゃべり倒すわたしたちに、たまは圧倒され、退屈したのか、ほとんど食べ物には手をつけずに寝てしまった。後で家に帰ってからパパに「なんだかよくわかんなかった。パリパリだけたべてねちゃった」と報告していた。たまが寝てくれたおかげで、わたしは食事と会話に集中できた。
K嬢は秋に出産をひかえていて、話題は結婚よりも、その先のことに。産む前から職場復帰どうしようと案じるK嬢に「まず産んでから考えたら」と子持ちのわたしたち。「母乳は凍らせて保育園へ持って行くと飲ませてくれるの?」と心配するので、「そんなの出るかどうかもわからないうちに考えてもしょうがないよ」と笑う。案ずるより産むが易し、出たとこ勝負よ出産育児は。
集まったのは会社時代に親しくしていたメンバーだけど、やめて十年以上経つ人も。昔の記憶の曖昧を補い合って、あのときはああだった、こうだったと振り返る。十年ひと昔って、本当だなあ。
ランチを終え、たまを起こして店を出る。隣の公園で遊ばせるうちに寝ぼけ眼は生き生きとしてきた。夜の舞台は無理かなと諦めかけていたけれど「みる」と意欲を示したので、向かうことに。乗り換え駅の自由が丘で降りて、子ども靴を買う。近所の靴屋には品揃えがあまりなく、きつい靴で我慢していたのだけど、東急ストアでやわらかい素材のキャロットの靴を見つけられた。
上野毛駅から十分ちょっと歩いたところにある中町ふれあいホールが英語劇発表会の会場。題材はマンマミーアだけどタイトルはFreaking Unreal。劇を通して英語を学ぶ教室の成果発表会らしく、演技は素人の人たちが出演。「でも、素人にしか出せないパワーがあります。絶対元気になれます」というミキさんの熱い呼びかけに引き寄せられた。会場に入ると、ペンライトいかがですかと元気なかけ声。お代のかわりにユニセフへの寄付をと示された箱には千円札が何枚も踊っている。
関係者席になっている一列目のすぐ後ろ、二列目に陣取り、開演を待つ。台詞はすべて英語だけど、結婚式に父親の可能性のある母の元カレ3人を招待するという粗筋はなんとなくわかっているし、おなじみのABBAの歌が次々出てくるので、置いて行かれることはない。しかし、たまにとってはちんぷんかんぷん。最初は「おうちにかえりたいよう」とささやいていたけれど、だんだん引き込まれて行って、歌が始まるとリズムを取り出した。
ミキさんの出番は中盤から。先日招待状を届けに久しぶりにわが家に来てくれたときに、トムとジェリーのDVDとぶり大根の食玩をお土産に持って来てくれたので、たまは「ぶりだいこんのおねえちゃん」と呼んでいる。舞台袖にミキさんが現れると「あ、ぶりだいこんのおねえちゃん」。マンマ・ミーアの世界にしょうゆの香り……。
花嫁のソフィア役の人が「プロでも通用するぞ」と驚く歌唱力で、彼女の歌う場面になると、客席の空気が変わった。その歌だけでも価値があると思える舞台だったけれど、どの出演者さんも全力で役にぶつかっていて、ほんの数メートル先から放たれるそのパワー、熱気に気持ちよく巻き込まれ、自分も動きたくってウズウズしてくる。
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06月20日(日)
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