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与太郎文庫
by 与太郎
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■ ポール先生、さようなら 〜 too Long 〜
 
http://d.hatena.ne.jp/adlib/20001007
 
 ◆ too Long
 
 ふだん口を利く機会のない亀田弘行君が、笑いながら話しかけてきま
した。
「きみ、クラシック好きやろ」
「まあな」
「輸入LP盤、聴きに来いひんか」
「どこへ?」
 あろうことか彼もまた、ESSの隠れセールスマンだったのです。
 当時のボクは、通学路周辺の名曲喫茶にあるすべてのレコードなら、
針をおろした瞬間に、演奏者まで名指しできるほど精通していたので、
あたらしい盤が聴けるなら、どこへでも出かけたにちがいありません。
「ESSか。また何かしゃべるんやろ?」
「いやいや、レコード聴くだけや」
 行ってみると、メンデルスゾーンの協奏曲が鳴りはじめる。
「誰や、ハイフェッツかな?」
 さっそく亀田君が、ジャケット数枚を持ってきてくれました。そして
そのまま、ボクのそばから離れようとしないのです。ジャケット裏面の
真っ黒な英文活字をにらみつけ、ボクは荒野の試練にさらされたのです。
そのボクを、じっと見張っている亀田君との我慢くらべは、数時間にも
およびました。ほんとうのところ、ボクはジャケットはもとより、音楽
も亀田君の存在も、眼中にないほど固まっていたのです。
 なぜなら、その席にX嬢が現われたからです。数ヶ月まえに、彼女に
あててはがきを出していたことは誰にも知られたくないが、この数ヶ月
もの間、ひそかに彼女からの返信を待っていたのです。
 その数日後、もういちど彼女にあてて(メンデルスゾーンの華麗なる
ロマンチシズムに関する意見書を)投函しましたが、かれこれ四十数年
を過ぎてなお、いまだに返信はありません。当時の、文芸部誌《山脈》
第十四号の表紙では、彼女が着ていたセーターの色を再現しています。
その色は、以後の作品にあらわれることのない、わたしのエヴァ・グリ
ーンとなりました。
 このころひそかに、高校オーケストラの構想も熟していました。
 ゴリとバンバ(吉田 肇 &馬場久雄)とともに“三銃士”、有賀誠一
をダルタニアンになぞらえ、わがシンフォニエッタ発祥の歴史をつづる
音楽自伝として、一挺のチェロの運命をたどる《双竜外伝》、草稿断片
《天才少年少女伝》などがあります(いずれも未完成ですが)。
 
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── 【虚日】何事もない日。ひまな日。【虚実】@無いことと有るこ
とと。空虚と充実と。Aうそとまことと。B防備の有るのと無いのと。
種々の策略を用いること。→【虚々実々】(「虚実」を強めていう語。
「虚」は備えのすき、「実」は備えのかたいさま)互いに敵の虚を攻撃
し、実を避けて、計略や秘術の限りをつくして相戦うさま。【虚実皮膜】
(近松門左衛門の語)芸は実と虚との皮膜の間にあるということ。事実
と虚構との中間に芸術の真実があるとする論。
── 新村 出・編《広辞苑 19711118 岩波書店》P0584
── 虚虚実実の〔抜け目のない〕shrewd,astute;〔たくみな〕clever
 
── 荒木 一雄・編《ブライト和英辞典 19890120 小学館》P338
 虚々実々、ここではパロディ風に「虚々日々 Day was Day 」と転用。
 
 
 ◆ Who was Who
 
 亀田弘行君とは、それほど親しいわけではなかったのですが、回想を
たどるなかで、しばしば重要な役割で出現します。
 中学二年のころ、級友たちのうわさによれば、彼の父(生徒名簿では、
保護者・亀田得治)が、国会議事堂で灰皿を投げつけたというのです。
 かくも血気さかんな野党政治家(吉田内閣時代の社会党議員)を父に
もちながら、おとなしい彼(この親亀にして子亀)が、なぜ地震学者に
なったのか。わたしは“地震ハイザラ火事オヤジ”と連想していました。
 これを書きながら(念のため確認すべく)私のハードディスクにある
約70,000行のファイル《生没総譜》を検索したところ見あたりません。
つまり、一般的な人名辞典に掲載されていない場合は、引退後ひさしく

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10月08日(日)
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