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与太郎文庫
by 与太郎
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■ 日本の弦楽四重奏談 A 岩淵 竜太郎氏に聴く
現状でして これほどヴィオラ奏者が足りないのだから やってみない
かとすすめても やっぱりヴァイオリンから離れたがらないですね
── むかし 大ヴァイオリニストのイザイエがたいそうヴィオラを愛
して 室内楽ではいつも持ちかえて楽しんだといわれますが 技術的に
危険なことなのでしょうか
岩渕 それがほんとうなんです すこしも危険な問題はないはずです
音大でも 一定のローテーションを組んで ひととおりは やらせる
ようにしているんですけれども どうも人気がありませんね あらゆる
角度からみて私はヴィオラをすばらしい楽器だと思いますし 有利でも
あるんですが どういうわけでしょうかね(笑)
■ 微調整のプログラム
── ベートーヴェンの全曲演奏会は これまでに何度かなさったので
しょうか
岩渕 連続としては こんどで2度目ですね 37年にそれまでの足か
け10年の集大成というわけでやったことがあります
── こんどのプログラムの第1回は最初・真中・最後と並んでいます
が 全曲の組合せかたにもいろいろあるでしょうね
岩渕 二通りの考え方ができますね ひとつは一回ごとのプロを 個々
に音楽的に独立したものにしていく もうひとつはベートーヴェン自身
がいかにたどったか という再現です こんどの場合は前者をとりまし
て ちょうど作品18が6曲ありますので これを全6回の冒頭にすえて
毎回 初期・中期・後期の各スタイルを あきらかにしたいと考えてい
ます ただし16曲を6回で割りきれない点はありますが(笑)
── もうひとつの問題といえますかどうか たとえば第1回のプロで
は ヘ長調が三つ並ぶのですが
岩渕 一般的には ひとつのプロで関係調による変化があった方がいい
ようですね このことを たいへんやかましくいったのがエッシュバッ
ハーでした 彼は稀にみるほどの絶対音感の持主でもありましたので
調性によって たとえば変イ長調とイ長調では 音そのものの色あいの
ようなものが異なって聴こえるらしいですね 私は実のところ半分くら
いは わかるような気もするんですが(笑)それほど厳密には感じてい
ませんが 有馬さんの部屋へエッシュバッハーが飛びこんできていわく
どこかで鳴らしてる レコードの回転が少し速いから 何とかしろなん
ていう実話もありました(笑)彼にとって それがかなり苦痛らしくて
決してキザなふうではなかったですから そういう人たちのためにも
注意すべきことですね
── すると たとえばヴァイオリンでよく響く調性であってもヴィオ
ラおよびチェロには向かないという場合もあるわけですね
岩渕 弦楽器の場合は純正律で5度ずつ正しく調弦しますと 音の巾が
だんだんひろくなるんです そこでかなりいろんな操作をしませんと
つじつまが合わなくなるということが起ります 具体的にクワルテット
の音程は特殊なものでヴァイオリンのE弦はすこし下げ チェロのC弦
をすこし上げて調弦します それに第一ヴァイオリンがいい気持になっ
て明るい音程で歌ったりすると 妙なことになるわけです
── たえず低音弦とのバランスを考えなければならない
岩渕 ですから ひとりでさらってるいる分には いい音程なのに
アンサンブルになるとおかしくなる人たちもいますね 一般のこれまで
の音感教育が どちらかといえば ピアノ中心で 耳が平均律的に訓練
されていることもあるでしょうね
── 写真におけるピントの問題が いくぶん似ているようですね 見た
とおりに写るという一眼レフでは 人によって微妙な差が生じるわけで
す 人間の目といえば 耳にくらべてより以上に日常的で 主観的なの
で そのごくわずかなちがいで平面上のチャンスを逸することもあるよ
うに思われます
岩渕 たいへん興味のある問題ですね おそらく理論的なものと経験的
なものとの一致がクワルテットの場合にも必要でしょうね
(喫茶スマートにて 1969・11・12)
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11月12日(水)
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