ID:87518
与太郎文庫
by 与太郎
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■ 楽中楽外 〜 音楽家たちの夜と昼 〜

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 楽中楽外 〜 音楽家たち(イ・ムジチ)の夜と昼 〜
 
 イ・ムジチ合奏団といえば、レコードにしろ実演にしろ、いささかの
隙もなく、はりつめた、まるでカミソリのような音をつくり出す。その
彼らだって、酒を飲んだり騒いだりすることもあるだろう。こんどの来
日では、22日間というもの、休みなしの連続公演で、第七夜を済ませた
一行は、疲れもみせず最近発足した、若い女性ばかりの弦楽合奏団“オ
ルケストラ・ダルキ・フロラルコ”の夜食招待に応じて、正装のまま近
くのレストランにあらわれた。
 日本のレストランの出す料理などイタリア人にとって、ほんのオード
ブルまがいではないか、との招待側の心配もあったにちがいなく、しか
るに彼らは予想したよりも、つつましく飲みかつ食べていたのは御同慶
の至りである。
 フロラルコを主宰する田村隆至氏が歓迎の意ならびに自己紹介をのべ
るとリーダーのミケルッチ氏は“女性ばかりとはうらやましい、こちら
にも3人はいるんだがね”と両手をひろげてみせた。きけば、フロラル
コが三日後にデビュー・コンサートを催すのに6ヶ月間の練習期間しか
なかった点が、イ・ムジチの発足当時と同じだそうだ。“イタリアに来
ればおおいに歓迎しよう”と、居ならぶ妙令の花を前にして気嫌の悪い
はずもなく、メンバーの誰かが“こんなに女性がいるんだから、もっと
仲良く坐ろうではないか”と提案したので、フロラルコ諸嬢は万博のコ
ンパニオンよろしく宴席に散ることとなった。この日のために彼女らは、
練習の合間を縫ってイタリア語の勉強を重ねたときくが、彼らのあまり
の早口に、結局はほとんど役立たなかったようである。
 フロラルコとしては、せっかくの機会だし、なんぞ参考になるような
意見でもきき出せればと期待して、あらかじめイタリア語に堪能な中川
先生に来てもらっていたのだが、つい先ほどまで他処で、客人をもてな
した続きとかで先生“今宵はさっぱり調子が出ない”といわれる始末。
しかし頼りにしないわけにはいかず、なんぞはやく、とあせるうち食べ
るものも飲むものも片づいていくほどに、心残りを記念写真に託して、
おひらきとなる。
 “演奏してみないか”とフロラルコにいったのは、単なる社交辞令で
あったかもしれぬが、すでに遅し。なかに楽器のケースをひらいて見せ
てくれる気のよいメンバーもいた。
 二次会という習慣がイタリア紳士に通じたのか、ボスをはじめ3−1
−2の変則編成とこちら4人、まさに“秋の酔っぱらいたち”となるべ
く出発した。
 誰が案内したのか、何をどうまちがったかゴーゴー喫茶の椅子に落着
いた一行10人、中川先生はおもむろに調子をとりもどしておられるよう
だが、あとの3対6は依然ことばが通じない。いつでも取りだせるよう
ヴァイオリン・ケースを胸に、リンガフォン仕込みの耳をそばだてる田
村先生、ほぼあきらめて腕ぐみなどしている門コンダクター、禁酒中と
かでジュースをなめている今席のスポンサーT氏、筆者ときては、なん
ぞ記事になることあらばと、片言の英語でも通じないだろうかとボスに
話しかけたが、悠揚と首をかしげ、応じてはくれぬ。ヴァイオリンのア
ポストーリ氏が少しできるらしいので、そちらへ行くと“今宵はまこと
にグラツェである”といいながら、要するに隣の超ミニスカートに気を
とられていて、一向に話は進まない。

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11月22日(土)
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