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Kenの日記
by Ken
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■カザルスのベートーベン交響曲
ちまちまと「IPOD」音源整理を進めていますが、カザルスの指揮したベートーベンの交響曲を聴き直してみて大変感動しています。現在所有しているCDの中にはベートーベンの交響曲の1番、4番、6番、7番の4曲があります。どれもマールボロ音楽祭のライブ録音です。

「チェリスト」としてのカザルスの演奏は残念ながらステレオ録音は数える程しかないようですが、幸いにもオーケストラを振った演奏がかなり残されました。これらの演奏は「ブルーノ・ワルター」が「コロンビア交響楽団」と録音した一連の記録と並んで、後世に音楽ファンに残された過去の大音楽家からの贈り物だと言えます。モノラル録音だと音が悪いですがステレオ録音だと演奏の素晴らしさを堪能できます。フルトヴェングラー・トスカニーニがもう少し長生きしてくれていたなら、後世の音楽愛好家はもっと豊富な宝物を持つことができたのですが。

「ワルター」のステレオ録音が「スタジオ録音」であることに対し、「カザルス」の場合はライブであることが更に名演に拍車をかけていると思います。「カザルス」のベートーベンの音楽に対する敬虔な態度と、オーケストラ楽員が「カザルス」の指揮で演奏できることに感動している様子が見えるような気がしてきます。カザルスの練習は非常に厳しかったと聞いていますが、オーケストラのメンバーは「カザルス」の指示をひとつ漏らさずに確実に表現しようと必死に喰らい着いている感じがします。

私のコレクションのベートーベンの交響曲(1,4,6,7番)においては、最初に序奏が置かれている曲の面白さを再認識しました。1、4、7番は印象的な序奏があります。曲を知っていると何と言うことはないでしょうが、初演の時とか、初めて聞く聴衆が多い場合にはこの序奏は非常に重要な役割を果たすのだと思います。

この3曲で共通しているのは第一主題と大分雰囲気の違う序奏部が付けられていることです。それは4番で最も顕著であり、第一主題以降は長調で推移するにも拘わらず序奏部は短調で書かれていて、非常に不安定なムードを漂わせます。1番でも7番でも第一主題がリズムを刻む快速テンポであることに対し序奏は静的で和音主体です。序奏を聞かせておいて、次に一楽章第一主題に恕リがっていくのですが、この3曲ともそこの経過が非常に工夫しているのです。カザルスはベートーベンの意図を深く読み取って、非常に思い入れを込めて第一主題に飛び込んでいくのです。そして第一主題提示は晴れやかで悦びに満ちたものとなっています。聞きなれてしまえば単なる序奏ですが、カザルスで聞くと第一主題の登場が待ち遠しい気持ちにさせられます。

6番(田園)は1・4・7とは違って序奏を持たずいきなり第一主題が提示されます。これはちょうど5番と同じように最初の第一主題の提示部最後に「フェルマータ」を置いて主題を聴衆に印象付けます。6番でははあくまでも「平和で悦びに満ちて」、そして5番ではあくまでも「挑戦的で活動的」です。ここでは聴衆を驚かす必要など全くない。最初から曲全体の雰囲気が提示されることになります。

ベートーベンはどのようにこれらの交響曲をかき分けたのでしょうか。最初に一楽章から4楽章までの「本文」を書いてから「序奏」を付けたのか。それとも一楽章をの主題を決め、その性格から序奏の必要性を吟味したのか。それとも「序奏」が最初に思い浮かんだのか。多分「カザルス」は相当悩んだのだと思われます。
08月13日(水)
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