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Kenの日記
by Ken
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■エル・システマ・ユース・オーケストラ・カラカス演奏会
池袋の東京芸術劇場で行われている「エル・システマ・ユース・オーケストラ」の演奏会に行ってきました。今日のプログラムはモーツアルトの協奏交響曲とショスターコーヴィッチの交響曲第7番という非常に魅力的なプログラムなのですが、妻が所属する合唱団の発表会と重なったいたので前売り券は買わずにおいたのでした。目黒パーシシモンホールでの発表会を聞いた後「体力・気力」も十分だったので当日券を買って聴くことにしたのでした。
6時開演の演奏会にギリギリ間に合って座席に就くと、オーケストラメンバーがほぼ全員ステージに上がっていました。物凄い人数です。芸術劇場のステージの客席側には空きスペースが無いほどファーストバイオリンが迫り出していて、ス前列だけで9プルート。コントラバスは16本!この弦楽器集団に対抗するように管楽器は2倍・3倍の陣容です。最初の「音あわせ」からかなり基本をしっかり押さえた、引き締まったチームワークが感じられました。
最初の「運命の力」から素晴らしい演奏が展開していきました。金管楽器は音が均質なのでパイプオルガンのような響きです。決して荒々しくならず、しかも力強い。弦楽器の合奏能力には脱帽しました。後ろのプルートまでボーイングは弓を長く使うので音が分厚くしかも音程がぶれない。これだけの弦楽器の合奏を直接聴くのは初めてでした。
二曲目のシンフォニックコンチェルタンテでは管楽器の能力の高さを証明してくれました。特にクラリネットの「カルム・ソマサ」さんの音楽性はオケ全体をリードする程のものでした。音は「稜線」の美しいクラリネットらしい音でフレーズはとても長い。指使いは「モラゲス」を彷彿とさせるような優雅さ。10日にはモーツアルトの協奏曲を吹いたのですが聞いてみたかったと思いました。弦楽器群はかなり絞りこまれた精鋭軍のようですが、少し精細がなかったみたい。あくまでも管楽器の引き立て役に徹したようでした。
そしてメインのショスターコービッチ。パイプオルガン演奏席の左右にホルン4本、トランペット3本、トロンボーン3本。ステージは溢れんばかりの弦楽器軍団。最期までエネルギーの満ち溢れた演奏でした。この長大でギラギラするような「レニングラード」交響曲をヴェネズエラの若者が自分達の音楽のように演奏する姿に非常に感動を覚えました。技術があって成長意欲に燃えていて且つ仲間と演奏することが好きでたまらない若者が大勢集まることで成し得た稀有の演奏だと思いました。
レニングラード封鎖を自ら経験したガリーナ・ヴィシネフスカヤはロシア芸術を言い表す際に「過剰さ」という言葉を使いましたが、まさしく「レニングラード交響曲」はロシア芸術の典型的なものです。それはドストエフスキーの小説にも言えるのですがさまざまな意味で「過剰」なのです。これは「侘び寂び」を知る日本人の芸術感覚とは対極的なものでもあります。こう考えながら演奏を聞いていると、ベネズエラの若者達は日本人の感ずるのとは別な共感を抱いて演奏しているように思えました。特にアンコールの「ヒナステラ」を聞くと南米の音楽も結構「過剰な」音楽の洪水であることが分かります。しかしその音楽の断片ひとつひとつは基礎がしっかりした確信に満ちた音で表現されるのです。そしてこのような名演を実現した指揮者「レオン・ボットスタイン」の存在を忘れる訳にはいきません。彼はこの日の演奏会を振るためだけに来日したのでした。この日以外は常任指揮者の「パレーデス」が振るのですから。
プログラムに書かれた曲目が全部終了し、熱烈なスタンディングオベーションの中で指揮者が何回か楽屋とステージを往復した後に、突然場内の明かりが全て消されホール全体が暗闇となりました。1分程度のあと再び明るくなったステージでは楽団員・指揮者全員がベネズエラ国旗の色の派手なヤッケに身を包んでいました。恒例の賑やかなアンコール開始です。この日は「ヒナステラ」のバレエ曲一曲でしたが、若者達のエネルギー・若さに圧倒されるステージでした。
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10月12日(土)
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