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Kenの日記
by Ken
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■辻井伸行さんのピアノ
2009年のアメリカのヴァンクライバーン国際ピアノコンクールで優勝した辻井伸行さんのコンクールの時の模様がテレビで放送されました。予選から本戦までの20日間の辻井さんのチャレンジ姿が映し出されていました。コンクールの最初の頃は本選に残る事を目標としていた辻井さんが、段々とコンクールの主役に成長していった軌跡です。

コンクールは「個人リサイタルと他の演奏者との共演」という組み合わせの試験演奏によって、徐々に上位入選者が絞られていきます。素人からするとソロリサイタルの派手なパフォーマンスに目を奪われがちですが、審査員の目は他の音楽家との共演の部分により注目していたみたい。それはピアノ五重奏曲を一緒に演奏した弦楽四重奏団の4人のメンバーと、またコンチェルトを伴奏した指揮者と多くのオーケストラメンバーとの関係でした。

随分前に仙台で行われた国際青少年音楽コンクールにおいて、現在でこそ飛ぶ鳥を落とす勢いの「ランラン」が優勝した時の状況を思い出しました。当時まだ少年のランランは、その人懐こいキャラクターと、非常に純粋で謙虚なで人を惹きつける人柄が伴奏の仙台フィルを味方にして、素晴らしいコンチェルトを演奏して圧倒的に優勝したのでした。「味方にして」という表現は誤解を生む表現で、実際には、ランランの高度で素直な音楽性に触発された指揮者・オケが自然に自らの全音楽性を発揮し、そのオケ・指揮者の音楽性をランランが受け止めて自分自身を高めていく、という関係だと思いました。

まさしく今回の辻井さんのクァルテット、オーケストラとの共演において、辻井さんの成長したのだと思います。共演の場合に辻井さんは自分の音楽を表現する前に、他人の音楽を聞いて理解しなければなりません。目の見える演奏者は指揮者の棒をみれば良いのですが、辻井さんは共演者の音楽を聞き、共演者の息使いを感じ取らなければなりません。クアルテットの場合は4人ですが、オケだと数十人の芸術家が相手になります。これだけ多くの芸術家(人間)と音楽的なコミュニケーションをするのですから、自らが啓発されるのは当たり前です。謙虚になるのは当たり前だと思います。そこから非常に心のこもった、暖かい音楽が生まれるのだと思います。

ハスキルと共演した指揮者ジュリーニの話を思い出しました。モーツアルトの協奏曲を共演することになったジュリーニは、まずハスキルのピアノを聞かせてもらう事になったのでした。ひとりピアノの前に座ったハスキルは、オーケストラ全てのパートとピアノパートを織り交ぜて協奏曲全体通して弾き、ジュリーニにサジェスチョンを求めたのだそうです。その演奏はジュリーニにとって忘れられない演奏となったのでした。ハスキルにとってピアノ独奏パートに加えて、伴奏のオケの音楽も全て頭に入っていたのでした。

辻井さんの場合にも、自分のパートばかりではなく、全てのパートを聞いて一緒に音楽を造り上げたのだと思います。そこに自分の音楽性を前面に押し出そうと主張する他のコンクール参加者との違いがあったのだと思います。
11月30日(月)
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