ID:81711
エキスパートモード
by 梶林(Kajilin)
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■はかどらない墓参り。
あれは父の墓参りに行った時のことじゃった。

墓地の門の脇に、桶を入れる棚がある。スーパーの袋に入った我が家のそれを取って水を入れる。

「”ひしゃく”をスーパーの袋で桶の取っ手に結んでおくのはお母さんのアイデアだ。ほら、他の家のも見てみ。みんな真似してっから」

墓に来る度に母は必ずそうドクター中松ばりの勢いで自慢する。そして墓に来る度に

「ひしゃくかして!」

娘・R(9才)は必ずひしゃくをひったくり、ひしゃくを空に向けて高く掲げるのである。もちろんこのひしゃくは船幽霊対策のために底抜けではない。「梶林家」と書かれた底がちゃんとある。Rはその家名がこちらに見えるように

「はーい、こっちでーす、付いてきてクダサーイ」

ツアコンよろしく先導するのである。時々いっちに、いっちに、と鼓笛隊の指揮者のようにもなる。しかし息子・タク(7才)は聞いちゃいなく、

「ボク梶林家のおはかにいちばーん!」

誰よりも先駆けて当家の墓に走って行く。

「タク!走るな!」

と叱る嫁。しかし叱ったところで聞くわけもなく、ゲゲゲの鬼太郎昼間バージョン状態だ。結局誰も付いてきてくれず、

「たっくん!ちゃんとRの後に付いてきてよ!」

という姉弟ケンカも墓に来る度だ。

父の墓前に立つ。孫にあたるこの子達が誕生する前にいなくなってしまった父は、草葉の陰から見ていたりするのだろうか。もっと早く僕が嫁としっぽりしていれば…とこれも墓に来て手を合わせる度に思う。

「はい、君達も手を合わせな」

子供達に線香を持たせて正面に立たせると、Rは線香の煙がイヤで、線香を置くとすぐ離れて遠くから手を合わせる。タクはキチンと墓前で手を合わせるのはいいのだが、

「カード!カード!カード!」

ぴょんぴょんジャンプしながらポケモンカードを買ってもらえますように、とお祈りするのである。

「この子、こないだの神社でも同じことをしてたよ」

どんだけカードが欲しいんだか、と嫁が溜め息をつく。こんな僕らの中に、父がいたらどんな顔で僕らと喋っていただろうなあ…と想像する。で、また手を合わせて父の墓を後にした。

「はーい、梶林家こっちでーす」

帰り道もまたRがひしゃくを高々と掲げていたが、やはり誰も付いてこないので、さすがにポツーンとしていてかわいそうだったので僕が後ろに付いてやることにした。

お墓だけにひとり墓っ地ってか。

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01月09日(水)
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