ID:81711
エキスパートモード
by 梶林(Kajilin)
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■餅は熱いうちに食え。
小学校の校庭で、炊き出し訓練が行なわれた。

毎年この時期になるとPTAの人達、町内会、区役所、消防署などの人達が協力し、備蓄品のおこわを炊いたり、けんちん汁を作ったり、併せて餅つき大会やフリマなども行なわれるので、お餅やおこわ目当てに結構な人が集まる。

僕も町内のオヤジのひとりとして、微力ながらお手伝いをした。訓練の前日、オヤジ達が手分けして70キロの餅米を研いだのである。ウチに帰ってから嫁に

「明日の餅つき用の餅米、オヤジ達が研いだんだぜ!」

と誇らしげに言ったところ

「それって…大丈夫なの?」

思いっきりイヤな顔をされた。

「だだだ大丈夫に決まってるだろ、ちゃんと手ぇ洗ったよ!」

「そういうことじゃなくて、ちゃんとした研ぎ方したのか心配だわ!」

「すざけんな僕だって米ぐらい研げるわ!」

いくら料理が出来ない僕だって、さすがに米ぐらいは研げる。その後は電気釜のスイッチをポチッとなしてボンカレーをかけて食べるぐらいしか出来ないが。

当日も朝、訓練開始前に学校に行って、校庭でオヤジ達とお母さん達で餅つきをした。ぺったんぺったん突いているウチに開始時間となりご近所の人達も集まってきた。嫁と娘・R(9才)・息子・タク(7才)もやって来たので餅つきしないか誘ってみた。

「Rもお餅ついてみる?」

「やだ」

Rにはアッサリ断られ、

「タクは?」

「やる!」

というわけでタクだけ楽しそうにペタペタ。

「ほらお父さんお母さん、早く写メ撮って!」

周りのオッサンに何故か煽られて、別に撮るつもりはなかったのだがここまで言われて何もしないのもなんかアレかなあ、と思って慌てて写真を撮ってしまった。

僕は嫁や子供達にいいところを見せようと、餅つきを頑張ろうと思ったのだが、もう既にバテてしまって腕が上がらなくなってしまった。

「すいませーん、離脱しまっす」

と仲間のオヤジ達に謝って戦線離脱。

「握力がなくなっちゃった」

と嫁に言うと

「ハア?」

いいところを見せるどころか思いっきりバカにされてしまった。

校庭で暴れまくっている子供達をとっ捕まえてお餅やおこわをいただける列に並んで、いただきまんもす。うむ、自分が(ちょっとだけ)研ぎ、ついた餅はうまい。

この時タクは僕の横にいたのだが、

「あ、たっくんだ!」

「たっくーん」

「かわいいー」

タクを見つけてもの凄い勢いで走ってくる女の子3人組が現われた。3人ともタクと同じクラスの女子である。彼女達はタクを誘拐する勢いで、

「一緒にあそぼ」

「お話しよ」

「フリマ行こ」

タクを取り囲み、手を取って連れて行ってしまった。あまりにもあっという間の出来事だったので呆気にとられ、食べていた餅をうんがっぐっぐ、とサザエさんばりに喉に詰まらせてしまうところであった。

なんだあのモテモテ現象は。3人の女の子にチヤホヤ引っ張りだこなんて、そんな人生経験したことないよ僕。生まれてからたったの7年で、タクは僕より高い人生のステージに達している…。

「大変だ!タクがモテまくりだ!」

我に返って嫁に伝えると、

「そお?アレ、モテてるって言うのかなあ…?なんかペットとか珍獣とか、そういう扱いに近いような気がするんだけど…」

さすが色素沈着、じゃなかった冷静沈着の嫁やでぇ。

それでも僕はタクが羨ましい。ペットでも何でもいいからチヤホヤされたいものである…そう思いながら腹いせにタクが食べ残した餅をいただくのであった。

今何時、そうねだいたいね〜。

胸騒ぎの餅つき。

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12月04日(火)
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