ID:81711
エキスパートモード
by 梶林(Kajilin)
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■台本通りにいきません。
息子・タク(7才)が学芸会で行なわれる演劇の練習をしている。

学校から「おうちでも練習しましょう」と言われているようだが、タクは念願の主役・桃太郎になれたので言われなくても張り切って台本を読んでいる。自分のセリフだけではなく、既にほぼ台本全部を覚えてしまっていて、僕も休日になると

「ねえパパ聞いてて〜」

おじいさんが芝刈りに行くところから鬼ヶ島から凱旋してくるところまで延々と聞かされる羽目になるのだ。北島マヤかお前は。一方娘・R(9才)の学年も当然劇はあって、練習しなければならないのだけれども、Rはほとんどやらない。

「Rは練習しなくて大丈夫なのか?」

「うん」

あんまりやる気がないらしい。もっとも、Rの役はセリフが少ない「野菜売り」であり、また、

「Rねえ、本当は『花売り』の役がよかったんだよ」

第一希望の役でもなかったこともあり、自分のセリフだけ言えればいいや、ぐらいの消極的なようである。

タクに話を戻す。タクのしゃべりをひととおり聞いて気付いたことがあった。それは、

「お爺さんとお婆さんのセリフだけ異様に上手い」

このことであった。

「なんと、みごとな桃じゃあ〜」

まるでさくら友蔵(ちびまる子祖父)のような言い回しで、ちゃんと枯れた声色を使って喋る。それでいて肝心の桃太郎のセリフはほぼ棒読みに近い。

「なんでこんなに爺さん婆さんのセリフだけ板に付いてるんだろ」

と嫁と首を捻っていたが、やがて思い出した。一時期「まんが日本昔話」にはまっていたことがあって、何回も何回も見たことがあった。おそらくその時の市原悦子と常田富士男のしゃべり口調がインパクトありすぎてタクに濃い影響を与えているのだろう。

「先生に頼んで爺さん役に替えて貰うか」

と半分本気半分冗談で言うと

「やだ!」

さすがにウンとは言わないタク。しかしこのままでは北島マヤどころか乙部のりえにも劣る。

「じゃあ特訓だあ!」

僕は心を鬼にして、月影千草の霊(まだ死んでない)が乗り移ったが如くビシバシと演技指導した。

「鬼と闘うシーンは仮面ライダーのように勢いを付けろ!」

「照れちゃダメだ!ショータイムだ!とかアドリブ入れちゃってもいいぞ!」

「もっと宇宙を感じろ!」

等々…。結果、ちょっとはマシになったかもしれない。タクに付きっきりになっていたところで

「よし、じゃあRもセリフ言ってみて」

急にRにも振ってみると「いやあん、はずかしい」などとイヤイヤしながらも

「…トマトいかがですかあ」

照れながらセリフを読んだ。カワイイなあ、この子は。

夜のご飯はおでんであった。

昼間台本夜大根ってか。

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11月20日(火)
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