ID:81711
エキスパートモード
by 梶林(Kajilin)
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■負けないで。もう少し。
午後、息子・タク(6才)の水泳教室に備え、昼ご飯を食べていた。

「うーん、ドキドキするー」

タクは始まる前なので緊張しているのだと言った。別に初めてでもないし今更?と不思議に思ったのだがそのままモリモリ食べていたら

「うう…ううわあああん」

タクが食べながら号泣するではないか。泣くか食べるかどっちかにしろ!、いや、そういうことではなく

「どうしたんだ?」

「水泳、行きたくない!」

いきなりサボタージュ宣言。

「なんでよ!」

「ドキドキするの!きんちょーするの!」

それって恋なのかしら、って違う。とりあえず食べろ!と言い聞かせて昼ご飯を食べ終える。それでチャリに乗っけて水泳教室まで走りながら話を聞く。どうやらドキドキする、というのは

「コーチが厳しいから。苦しくてもやめさせてくれないから」

とのことで。レッスンの様子は僕も見ているけど全然厳しくない。コーチも皆おかあさんといっしょ系の気のいい兄ちゃんばかりである。もっとスパルタ系の水泳教室もあるし。タクは進級したてなので今のクラスのレベルがちょっとキツイってのは確かにあるのだろうけれども…。

とりあえず水泳教室に到着。

「こんにちはー。あら、どうしたの?」

未だ号泣しているものだから受付のお姉さんを始め周りの注目を浴びながら中に入り、

「タク、それはコーチが厳しいんじゃなくて、今が頑張り時なのだ。頑張って練習すれば強くなって苦しくなくなるぞ」

とかなんとか言っちゃって説得を試みつつ、水泳教室に着いて水着に着替えさせた。それでも

「今日のコーチが誰なのか知りたいー!」

泣きながら訴えるタク。

「じゃああの受付のお姉さんに聞いてこい」

「いっしょに行ってー!」

「はいはい」

タクはしくしくと受付に行き、

「僕○○級ですけどコーチ誰ですか」

とお姉さんに聞き、

「××コーチだよ」

との返答にまた号泣。どうやら恐れていたコーチだったらしい。

「タク、そういうのから逃げてちゃ何も上手にならないぞ。今逃げたら負けなんだ。悔しくないのか!」

とか星一徹になった気分で諭すが、そもそもスポ根大嫌いな僕の息子なのでしょうがないかなー。今日ダメだったら辞めさせちゃってもいいかなー、なんて思っていたら

「じゃあお姉さんが『優しくしてね』って言ってあげるから一緒に行こう!」

おお、なんて天使な受付のお姉さん。タクはお姉さんに手を取られ、コーチが待つプールサイドに歩いて行った。そこでコーチと二言三言話して、タクは素直に授業を受ける気になったようで、他の生徒と一緒に体育座りで座った。

「大丈夫でしたよ〜。まだ幼稚園ですか?偉いですね」

笑顔で戻って来たお姉さん。フォローのひとことも添えてくれてありがたいものである。胸が熱くなり深々とお礼をした。実はそのお姉さんとコーチが出来ていて、

「優しくしてね」

と言ったのはタクのお願いと共に夜のお願いも含んだダブルミーニングだったら…と妄想したら股間も熱くなった。

授業が始まってから待合室で見ていたが特に変わったこともなく、普通にこなしているように見え、終わって戻って来た時はケロッとした顔であった。

「な?大丈夫だったろ?」

「うん」

つい1時間前には号泣していたのがウソのようにニヤニヤとしておった。

帰り道、

「パパー」

「はい」

「さっき泣いてたのはねえ…」

「うん?」

「あれ、うそ泣きだから」

「うそつけ!」

泣いたカラスがもうウソつき。なんちて。

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12月18日(日)
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